日本語要旨

埋没腐植層における乾燥と湿潤の繰り返しによるCO2放出増大に対する有機金属錯体の寄与

近年、地球温暖化に伴い、総降水量が大きく変化しない一方で、極端豪雨や干ばつなどの頻度が増加している。このような降雨パターンの変化は、土壌の乾燥と湿潤の繰り返し(DWC)を増大させ、土壌有機物分解や二酸化炭素(CO2)の放出に影響を及ぼすことが懸念されている。これまで、DWCに起因するCO2放出の主な炭素源としては、微生物細胞の破壊や浸透圧調節物質の代謝により放出される微生物細胞由来の炭素が考えられてきた。しかし、近年の研究では、急激な再湿潤によって有機金属錯体が破壊されることで放出される炭素もまた、重要な寄与因子である可能性も示されている。この寄与を評価するため、我々はDWC条件の培養実験を実施した。実験には、有機金属錯体を豊富に含む一方で、微生物バイオマスに乏しい埋没腐植層2土壌を供試し、比較対象として表層土壌2土壌を用いた。埋没土壌と表層土壌のいずれにおいても、DWCは対照区と比較して、培養期間中のCO2放出速度を1.4から4.8倍に増大させた。特に、埋没土壌におけるCO2放出の増加量は、測定された微生物バイオマス炭素の減少量を上回っていた(CO2放出増加量の40%以下)。一方で、有機金属錯体を指標するピロリン酸抽出性炭素量は、CO2放出増加量の少なくとも90倍であった。本研究および先行研究のデータを含めた再解析の結果、対照区に対するDWCによるCO2放出増加率は、土壌中のピロリン酸抽出性アルミニウム量と有意な相関を示した。また、埋没土壌では特に細菌群集において、再湿潤後の急速な増殖に適応した栄養獲得戦略を持つ群集組成への変化が観察され、この変化もCO2放出の増大に寄与した可能性がある。本研究は、従来安定な炭素プールと見なされてきた有機金属錯体が、埋没腐植層におけるDWCによるCO2放出増大に大きく寄与し得ることを示唆している。