異なる気候シナリオ下の深層学習と大規模アンサンブルデータセットを用いた流域スケールの台風クラスター・マッチング:筑後川流域の事例研究
- Keywords:
- Cluster-matching typhoon; Deep learning; d4PDF; Climate change; Basin scale; Chikugo River Basin
台風の特性を理解し影響地域を特定することは、極端気象への効果的な備えと能動的な対応において不可欠である。これまでの多くの研究では、過去のベストトラックデータを用いて海洋スケールで台風の分類が行われてきた。しかし、同様の手法を「地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース」(d4PDF)のような、大規模アンサンブルデータに適用するには大きな乖離が存在する。本研究は、この課題に取り組むこととし、日本の南西部に位置する筑後川流域(CRB)を解析対象地域として、現在気候および+4K将来気候シナリオ下のd4PDFからCRBに影響する台風を計32,517個解析した。
CRBに影響する台風のクラスタリングを行い、分類された台風とd4PDFにおける類似台風とのリアルタイムマッチングをするために、深層学習ベースのクラスター・マッチングモデルを新たに開発した。モデルの中核はエンコーダー・デコーダーニューラルネットワークが生成する埋め込みベクトルであり、高次元特徴・大規模データ・台風の複雑な挙動を処理することにより、従来のクラスタリングおよびマッチングアルゴリズムの限界を克服した。解析により4つの明確なクラスターが同定され、主要な台風特性(経路・最大風速Vmax・最小中心気圧Pmin・継続時間)の観点から、台風の挙動とその将来変化の理解を深めることが可能となった。
特に、+4K将来気候シナリオ(2051〜2110年)では、Vmaxが平均33%上昇するとともに、猛烈な台風(カテゴリー4・5)の割合が顕著に増加すると予測された。リアルタイムマッチング手法は、280個の過去台風(1951〜2024年)を用いた検証で高い信頼性が実証され、Vmax・Pmin・継続時間の中央値差はそれぞれ+9%、–3.4%、+1.8%と、高精度のマッチングが確認された。類似台風の降水データと統合することにより、洪水予測の改善と気候変動下における水資源管理戦略の高度化が期待される。