西部北太平洋における海洋環境変動に応答した浮遊性有孔虫殻密度の季節変動
- Keywords:
- Microfocus X-ray computed tomography (µCT), Planktic foraminifera, Test density, Ocean acidification, Time-series observations
海洋は人類が排出した二酸化炭素(CO₂)の約4分の1を吸収しているが、その結果として海水の酸性化が進み、海洋生物への影響が懸念されている。しかしながら、外洋域における石灰質プランクトンへの具体的影響については定量的に評価されていなかった。本研究では、西部北太平洋に生息する石灰質プランクトンである浮遊性有孔虫Globigerina bulloidesを対象に、高解像度マイクロX線CT(MXCT)を用いて殻の密度を高精度で計測し、海洋環境との関係を調べた。
2008年11月から2009年11月までの1年間、水深150mと540mの海中に設置したセジメントトラップで採集した浮遊性有孔虫試料を解析した結果、殻密度は季節によって大きく変化し、夏季に最も高く約2.5g/cm3であったのに対し、冬季には約1.9g/cm3と、夏季に比べ約20%低下していた。これは季節的な海水の鉛直混合に伴う炭酸系、水温などの変動とよく対応していた。より詳細な解析を行うため、2010~2016年の7年間に実施した計8回の海洋観測で得られた現場の浮遊性有孔虫殻と、同所的に採取された混合層内の海水の各パラメータを比較し、その関係を統計的に解析した。その結果、炭酸イオン濃度変動が浮遊性有孔虫の殻密度変動を説明する主要因であり、水温の寄与は極めて小さいことが示された。以上の結果は、浮遊性有孔虫が、海洋環境に鋭敏に応答してその石灰化様式を変化させており、とくに炭酸イオン変動が殻密度変化を支配する重要な要因であることを示している。
浮遊性有孔虫は海洋の炭素循環を支える重要なプランクトンであり、死後、その石灰質の殻が深海へ沈むことで、炭素を海の深部へ運ぶ役割を担っている。今後も海洋酸性化が進めば、海水中の炭酸イオンの減少により、低密度の殻を持つ個体が増え、炭素を深海へ運ぶ働きにも影響が及ぶ可能性がある。本研究で確立した解析手法と得られた知見は、海洋酸性化が海洋生態系や地球規模の炭素循環へ及ぼす影響を予測・評価するうえで重要な基盤となると期待される。