日本語要旨

GISベースの機械学習モデルによる米国ワシントン州キング郡における斜面変動の影響評価

気候変動や都市化に伴い、斜面災害が人間社会に及ぼす影響を事前に評価する重要性が高まっている。従来の斜面変動(崩壊、地すべり)の危険度評価は、変動が発生しやすい場所の推定に重点を置いてきたが、土砂の移動範囲や人と建物への影響も考慮した評価は不十分である。本研究では、米国ワシントン州キング郡を対象に、GIS、機械学習、ランダムウォークモデルを組み合わせ、斜面変動を総合的に評価する枠組みを構築した。航空レーザ測量等に基づく2,331件の事例を収録したインベントリを用いて、斜面変動を発生域と堆積域に区分した。地形・地質・水文・人間活動に関する14の要因を用いて、ANN、SVM、RF、XGBoostによる変動発生確率モデルを作成した結果、XGBoostが最も高性能で、正解率0.90、AUC 0.96を達成した。観測された斜面変動の91%はXGBoostが非常に高確率と判定した場所に分布し、限られた面積内で危険域を効果的に抽出できた。特徴量重要度とSHAP解析により、傾斜、標高、地形湿潤指数が主要な説明要因と判明した。また、分析のメッシュサイズは10 mよりも30 mの方が精度と計算効率のバランスが良いことも確認された。さらに、XGBoostによる変動発生確率とランダムウォークモデルを組み合わせて、土砂の到達範囲を含む影響確率図を作成した。結果は正解率0.82、AUC 0.88を示し、高確率の領域に斜面変動の92%が含まれた。これにより、変動の発生域ではない緩勾配の都市域や沿岸部への影響が定量化された。最後に、人口、建物、学校、医療施設などの社会データを統合し、土砂災害の潜在的な被害強度を地図化した。斜面変動の発生しやすさのみを用いた評価では、高リスク域に含まれる建物は2.4%であったが、土砂の到達を考慮すると5.6%に増加した。本研究のフレームワークは、斜面変動の発生から移動・堆積、社会的影響までを一体的に評価することで、都市域における土地利用計画や災害の早期警戒に有用な空間情報を提供する。