日本語要旨

知覚的リアリズムの向上に向けた最適輸送に基づくWasserstein GANによる降水ダウンスケーリング

高解像度の降水予測は、豪雨による被害を軽減するうえで不可欠である。しかし、物理過程に基づく数値気象予報モデルによる高解像度降水予測には、計算機資源の制約により限界がある。本研究では、降水ダウンスケーリングのために、生成画像の分布を実画像の分布に近づける条件付きWasserstein Generative Adversarial Network(WGAN)を用いる手法を提案する。WGANは、降水場を生成する生成器(generator)と、生成データと実データの分布の違いをWasserstein距離に基づいて評価する評価器(critic)から構成され、生成器は評価器による評価を改善するように学習するGANの一種である。これにより、高次統計量や鮮明な構造を捉えることが可能となる。
本研究では、高解像度降水データと、それをダウンサンプリングして得られる低解像度降水データの組を用いてモデルを学習する、完全モデル実験の設定で実験を行った。平均二乗誤差により学習された従来型ニューラルネットワークと比較して、WGANは従来の評価指標ではわずかに低い性能を示したものの、微細スケール構造を伴う視覚的に自然な降水場を生成した。さらに、WGANで学習された評価器のスコアは、人間が知覚する降水分布の自然さとよく対応していた。事例解析の結果、評価器スコアの大きな不一致は、WGAN出力に含まれる不自然な構造だけでなく、参照データに含まれる可能性のあるアーティファクトを特定する手がかりにもなることが示された。これらの結果は、WGANの枠組みが降水ダウンスケーリングにおける知覚的な自然さを向上させるだけでなく、降水データセットの評価および品質管理に対する新たな視点を提供しうることを示している。