日本語要旨

こま切れ画像法を用いたサーモカルスト地形の深層学習による自動検出

北極域では気候変動に伴う気温上昇が顕著であり、永久凍土の融解による温室効果ガスの放出や地表面の変化が懸念されている。サーモカルスト地形は永久凍土の劣化を示す重要な指標であるが、その分布は広域に及び、形状も複雑かつ多様であるため、従来は衛星画像を用いた目視による判読に大きな労力を必要としていた。そこで、本研究では、曖昧で不定形な対象物の識別に適したこま切れ画像法(Chopped picture method)を用いて、深層学習を用いたサーモカルスト地形の自動識別手法の開発を行った。対象地域は、サーモカルスト地形が広域に分布している東シベリアのチュラプチャ地域とし、WorldView-2の高解像度画像を用いて解析を行った。まず、衛星画像から「サーモカルスト地形」と「その他」の画像をそれぞれ目視で収集した。その他の画像には森林や湖沼のような土地利用を含めた。次に、それらの衛星画像を縦横60ピクセルの正方形に分割し、深層学習を用いて「サーモカルスト地形」と「その他」の2クラス分類を行うAIモデルを作成した。最後に、学習用データに含まれていない画像を用いて、AIモデルの性能を評価した。解析の結果、サーモカルスト地形を森林や湖沼、市街地などの地形と区別して、高い精度で自動識別できることが示された。さらに、AIモデルで推定したサーモカルスト地形の分布を調べたところ、サーモカルスト地形は北向き斜面よりも南向き斜面に多く分布する傾向が確認された。これは、南向き斜面は日射量が高いため、北向き斜面よりも土壌の融解が進行しやすいためであると考えられる。近年、小型衛星の普及により衛星画像を利用する機会は急速に拡大している。本手法は、従来よりも低コストかつ効率的に永久凍土の劣化状況を把握することができる。そして、北極域における環境のモニタリングを可能にすることで、気候変動による生態系や人間社会への影響の評価に貢献する。