古環境復元に適した保存良好な腕足動物殻および殻部位の新たなスクリーニング法:ラマン分光法
- Keywords:
- Brachiopod, Diagenesis, Raman spectroscopy, Metal element concentration, Kinetic isotope effect
腕足動物殻は,保存状態がよい化石として豊富に産するため,古環境復元に有用な試料として数多くの研究で用いられてきた.しかし,腕足動物殻の酸素同位体比(δ18O)やクランプトアイソトープから過去の海水温を正確に復元するためには,反応速度論的同位体効果(KIE)や続成作用の影響が小さい殻または殻の部位を特定する必要がある.本研究では,日本およびタイ産の化石・現生腕足動物方解石殻を対象に,ν1ピーク中心位置(peak center)および半値全幅(FWHM)に着目したラマン分光分析を行い,同分析の迅速かつ非破壊的なスクリーニング手法としての有効性を検討した.その結果,現生試料では,peak centerおよびFWHMの種内変動は比較的小さく,各種はpeak center–FWHMクロスプロット上で特徴的な分布域を示した.MgおよびSr濃度の低い殻部位は,純粋な方解石により近いpeak centerおよびFWHMを示した.さらに,深さ方向プロファイル解析により,殻の外側表面からの相対深度60〜90%の殻部位が,KIEの影響が最も小さく,化学組成および結晶性の点で純粋な方解石に最も近いことが判明した.一方,先行研究において陸水性続成作用の影響が指摘されている化石殻では,peak centerおよびFWHMに顕著な変化が認められ,Mn濃度の高い試料ほどその変化が顕著であることから,ラマン分光分析法は続成作用の影響を捉えるために有用であると判断される.以上の結果から,ラマン分光法は,古環境復元に適した腕足動物殻および殻部位の選別に有効なスクリーニング手法であり,従来のスクリーニング手法との併用により,δ18Oやクランプトアイソトープに基づく古水温復元に適した試料の選択に適しており,その復元の信頼性を向上させると期待される.