水と耳石のストロンチウム同位体比の比較による岩手県大槌町の淡水型イトヨの生息範囲の解明
- Keywords:
- Otolith microchemistry, Gasterosteus aculeatus, Isoscape
安定同位体解析は、生物と環境間の元素の流れを調べる上で有用な手法である。生物の移動を理解することは生態系の保全にとって重要であり、放射起源ストロンチウム同位体比(⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比)は魚類の移動の研究に用いられてきた。河川水の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比は母岩地質の違いを反映して地理的に変動し、魚の内耳にある耳石の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比は過去生息してきた水の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比を強く反映するからである。
本研究では、岩手県大槌町の河口域に生息する淡水型イトヨ(Gasterosteus aculeatus)の生息範囲を調べるために、イトヨの耳石の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比と水の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比を解析した。まず、水の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比とSr濃度に基づいて河川の感潮域を特定した。そして、クラスター解析により調査地域を、感潮域を除いて⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比が重複しない4つのストロンチウム同位体グループ(SIG)に区分した。次に、水の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比から各SIGの⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比の範囲(平均値±2SD)を計算し、耳石の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比をその範囲と比較した。一つの支流(KB)において17個体のすべてが捕獲地点の水と同じSIGに分類されたことは、イトヨの狭い生息範囲を示唆した。一方、他の2つの生息地では24個体中6個体(OA)あるいは38個体中1個体(非感潮域NH1-5、感潮域NH6-13)が捕獲地点の水とは異なるSIGに分類されたことから、いくつかの個体が生息地グループ間を移動した可能性が示された。残りの生息地である支流河川(KA)では、上流(KAの非感潮域KA1-4:40個体すべてが捕獲地点の水と同じSIGに分類)と下流(KAの感潮域KA5-7:個体が複数のSIGに分類)でイトヨのSIGへの分類結果に変化点があり、河川内での移動障壁の存在が示唆された。
本研究は、調査地域を水の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比に基づいて区別できるグループ(SIG)に分割し、耳石の⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比を各SIGの⁸⁷Sr/⁸⁶Sr比範囲と比較するという方法が、魚類の河川内の生息範囲を解明するのに有効であることを示した。