日本語要旨

北ユーラシアにおける相互連関した水文気候変動:過去20年の変化と北極気候変化の影響

気候変動に伴う北極圏の急速な変容は、北ユーラシア地域に大きな影響を及ぼしている。2000年代半ばの東シベリアでは、夏季の降水量増加と永久凍土の融解により、複数年にわたる地表の湿潤化と河川流出量の増大が観測された。北極圏の温暖化はユーラシア大陸の冬季の寒冷化とも関連しており、「北極海-大気-植生-永久凍土-河川」が相互に連結したシステム全体に大きな変化が生じている。本レビューでは、1990年代以降に日本とロシアやモンゴルの研究機関が協力し、現地観測、リモートセンシング、モデル化の統合研究の協働による成果を中心に、北ユーラシアにおいて、水資源や気候フィードバックに不可欠な水循環、特に夏・秋と冬の現象に焦点を当てた。ユーラシアの大気水蒸気輸送と降水量の変化を理解することは、北極域の気候変動の影響を評価する上で極めて重要である。夏季の降水は、陸域での降水と蒸発散の繰り返しのほか、シベリアの「大気の川」などの現象に影響される。近年の東シベリアの湿潤年は、温暖化で増幅された数十年規模の大気循環の変動が寄与した可能性がある。一方、冬季の北極海海氷の減少は蒸発を促し、ユーラシア大陸に極端な寒波と豪雪をもたらす「Warm Arctic, Cold Eurasia (WACE)」パターンを形成する。東シベリアの北方林は、永久凍土上の活動層に貯留される雨水や融雪水を利用して維持されている。しかし、2004~2010年にかけての湿潤年は地表の水動態を激変させ、蒸発散を変化させた一方で、最終的には土壌の過湿化を招き、植生や凍土の状態を大きく変えた。また、シベリアの大河川は北極海への淡水流入の主要な源であり、レナ川流域では湿潤年に陸域貯水量の増加がGRACEなどの衛星データで確認された。これらの変化は河川流量に直結し、夏季の洪水ピークを引き起こす要因となっている。今後の研究には、北ユーラシアにおける複雑かつ相互に関連した水循環変化を解明するため、マルチスケールでの相互作用、長期的な気候変動、およびフィードバック過程をさらに統合的に考慮することが求められる。