ローガン山アイスコアに記録されたサハラダストの太平洋横断輸送
- Keywords:
- Saharan dust, Asian dust, Quartz, Cathodoluminescence, Ice core, Dust model
北太平洋を西から東へと横断して長距離輸送されるダストは、放射強制力の変化や氷晶核としての雲特性への影響、さらに高栄養塩・低クロロフィル域である亜寒帯北太平洋への鉄供給を通じて、海洋の基礎生産や炭素循環に作用すると考えられ、北太平洋の気候・環境に幅広いインパクトを与える。これまで、こうした長距離輸送ダストの主な供給源としては、東アジアの砂漠域が重視されてきた。しかし、近年の数値シミュレーションにより、東アジア上空の対流圏上部にサハラ砂漠起源のダストが頻繁に到達していることが示され、サハラダストの寄与にも新たな関心が集まっている。しかしながら、ユーラシア大陸を越えてさらに輸送されるサハラダストは、大気中濃度が低く検出が難しいこと、また北米域における長期観測記録が限られていることから、その輸送量・頻度・季節性や気候影響の実態は、十分に明らかになっていない。そこで本研究では、北太平洋に近いカナダ南部ローガン山のアイスコア中に含まれる石英粒子を対象に、走査型電子顕微鏡-カソードルミネッセンス分析とダスト輸送モデルを組み合わせ、1985—1989年に同地域へ沈着したダストの起源を特定した。
その結果、アイスコア分析からは冬季にサハラ起源ダストが卓越することが明らかとなった。モデル計算では、春から秋にかけてはアジア起源ダストが全体の49—73%を占める一方、サハラ起源は16—18%程度に留まることが示された。対照的に、冬季にはサハラ起源が約44%に達し、アイスコア記録と整合的な結果が得られた。こうした季節変化は、冬季にアジア起源ダストの長距離輸送が大きく抑制されるのに対し、サハラ起源ダストは冬季でも比較的高い輸送量を維持することを反映している。
本研究は、サハラダストが高頻度で北太平洋を横断輸送されていることを初めて実証するとともに、高高度での巻雲形成や海洋への鉄沈着を通じた生態系への影響の可能性を示すものである。