日本語要旨

オマーンオフィオライトWadi Haymiliyah地域の鉱物脈から推定される海洋リソスフェア内の古浸透率

海底下で起こる流体循環は岩石中の割れ目に支配され,そのような痕跡はオフィオライト中の鉱物脈として観察される。本研究では,オマーンオフィオライトにおいて鉱物脈の分布や数密度,形状などを系統的に解析し,等価チャンネルモデルとテンソル理論を適用することで海洋リソスフェア内での古浸透率を推定した。
オマーンオフィオライトのWadi Haymiliyahセクションでは,涸れ沢沿いに海洋地殻上部の玄武岩層からマントルのハルツバージャイト層までの露頭がみられる。本研究では,当セクションの31地点において鉱物脈の数密度,開口幅,走向・傾斜を測定した。地殻全体を通じて緑簾石やプレーナイトから構成される鉱物脈がみられるが,角閃石の脈は地殻下部に限られた。マントル内では低温型蛇紋石であるリザーダイト・クリソタイルからなる脈が観察された。鉱物脈ごとの数密度や開口幅から,等価チャンネルモデルとテンソル理論を用いて浸透率を推定した結果,緑簾石や角閃石の比較的高温で形成した脈の浸透率は10–7–10–10 m2,プレーナイトなど低温の脈では10–8–10–12 m2,マントルの蛇紋石脈では10–6–10–9 m2となった。なお,層状岩脈層内の緑簾石脈の多くは層状構造に平行に配向し,浸透率には二桁ほどの異方性が確認された。
これらの鉱物脈は海洋リソスフェア内を流体が移動した痕跡であるが,鉱物脈から求められた浸透率は,海底下の原位置調査によって得られる浸透率よりも顕著に高い。これは,割れ目が流体循環中に繰り返し開閉するためであり,鉱物脈から得られる浸透率は特定の時点のものでなく流体移動の積算値であることを示唆する。そのため,この積算値から海洋リソスフェア内を通過した流体フラックスを求めることも可能となる。