日本語要旨

高解像度全球化学輸送モデルを用いた人為起源オゾン前駆物質が国内及び越境オゾン濃度に及ぼす影響評価

オゾン化学の複雑性により、各国のオゾン削減シナリオが、自国、近隣諸国、そして世界に及ぼす影響を正確に定量化することは難しい。そこで、国・地域別排出シナリオに対するオゾンの感度をより深く理解するため、世界9地域および3カ国において、オゾン前駆物質である窒素酸化物(NOx)の人間活動による排出量をゼロに設定して、標準実験との差を評価するゼロアウト法を適用し、その定量化を試みた。本研究では、全球非静力学二十面体大気モデルに化学モジュールを結合したNICAM-Chemを用いて、対流圏オゾンをシミュレーションした。モデルの水平格子間隔は56 kmに設定しており、全球化学輸送モデルの中では高解像度である。まず、モデルで計算した地表オゾン濃度を、世界中の地上観測データを用いて評価した。相関は中程度から高い一方で、バイアスと不確実性は高かったが、他の全球化学輸送モデルと同程度であった。人為起源NOx排出量を評価するゼロアウト法に基づくシミュレーションにより、人為起源NOx排出削減がオゾン削減に及ぼす国内影響は、インドでは年平均14 ppbv、中国では年平均11 ppbvとなり、最大となった。また、中国における人為起源 NOx 排出削減が越境オゾン濃度に及ぼす影響は顕著であり、日本では年平均で地表面オゾン濃度が 7 ppbv減少し、北米では年平均1 ppbv減少、西ヨーロッパでも年平均1 ppbv減少した。本研究では、人為起源NOx排出量を20%削減した感度実験も実施したところ、その結果は概ね先行研究と一致することもわかった。しかし、オゾン化学の強い非線形性により、人為起源NOx排出量20%削減のシミュレーション結果は、100%削減の結果とは部分的に異なっていた。例えば、日本では、国内の人為起源NOx排出量を20%削減した場合、中国の人為起源NOx排出量を20%削減した場合よりもオゾン濃度が大きく低減した。この結果は100%削減の結果とは異なるセンスであった。この違いは、人為起源NOx排出量を大幅に削減するシミュレーション設定に起因する不確実性を示している。特定の国における排出削減が他国に与える影響を理解することは、気候変動抑制と健康被害減少のためのオゾン削減に向けた将来の国際協力を加速させる上で重要である。