日本語要旨

北太平洋西部亜寒帯域の混合層への溶存無機炭酸のエントレインメント:過去の二酸化炭素排出量の下での海洋酸性化の主要プロセス

北太平洋西部亜寒帯域の観測点K2(47˚N, 160˚E)の混合層酸性化の原因プロセスを検討した.検討に際しては,第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)の地球流体力学研究所地球システムモデルを用いて,過去1850年〜2014年の二酸化炭素(CO2)排出量の下で計算された物理および生物地球化学パラメータのデータを用いた.計算されたpHの低下は1960年頃から加速し,1960年〜2014年の低下率は−0.0015 year–1であった.このpH低下の主な要因は,溶存無機炭酸(DIC)濃度の増加である.混合層内のDICの収支を解析した結果,DICの増加を加速させる主要なプロセスは,秋から冬にかけて強化する鉛直方向のエントレインメント(3.1 µmol L–1 month–1)であることがわかった.このエントレインメントの強化は,大気のテレコネクションを介して伝わった地球温暖化とエルニーニョによる赤道域の高温の状態に起因する.海面のCO2ガス交換のDIC増加への寄与(0.16 µmol L–1 month–1)は二次的であり,水平移流(–0.6 µmol L–1 month–1)と生物活動(–2.6 µmol L–1 month–1)による寄与はDICの増加を弱める方向に働く.これらの物理的および生物的プロセスが合わさり,DICの増加率は0.043 µmol L–1 month–1(すなわち0.52 µmol L–1 year–1)となる.このDICの増加率は観測とも一致する.