二重すべり面摩擦試験をもとにした粒子特性の摩擦への影響評価-牡蠣殻の粉末が「日本一すべらない砂」に決定した原因を探る-
- Keywords:
- Friction, Dual-slip-plane friction, Particle-size distribution, Particle shape, Correlation coefficient, Principal component analysis, Citizen science
天然の鉱物から構成される粉体の摩擦特性の評価は、地震や地すべりをはじめとした自然災害の発生過程の理解につながる。一方、粉体摩擦は垂直応力やすべり速度のみならず、構成鉱物、形状、粒径分布など、複数の要素の影響を受けるため、推定は容易ではない。とりわけ、二つの異なる粉体に対して「相対的にどちらがすべりにくいのか」という問いに対し、正確に評価するのは難しい。こうした背景のもと、一般公募で選定した50種の天然素材の粉体の中から「日本一すべらない砂」を一対一の勝ち抜きトーナメント形式で決定する市民参加型イベントを実施した。対戦方法は次の通りである。異なる粉体を挟んだ2面の模擬断層に、せん断応力を同時にかつ徐々に加えていく。せん断応力の上昇に伴い、いずれか一方の粉体がすべり始める。先に1/4回転した粉体を「すべった」(=敗者)と判定した。本イベントの結果、牡蠣殻を粉末状に砕いた砂が優勝した。そこで本研究では、トーナメントに参加した50種類の粉体の中から牡蠣殻が優勝した要因を精査した。その結果、トーナメントで勝ち進んだ粉体ほど、ピーク摩擦が高いことがわかった。また、岩石を砕いた粉体(例:花崗岩、鉱石など)は、天然の砂(例:海浜砂、川砂)よりも摩擦が高い傾向が認められた。さらに、勝ち残った砂には、粒径分布が広く、粒子が扁平かつ角ばった形状をしている共通の特徴が見られた。とりわけ牡蠣殻片は、参加した粉体の中で最も粒径分布幅が広く、扁平だけでなく針状の粒子からも構成されていた。一方、平均粒径や構成鉱物の種類がピーク摩擦に与える影響は確認されなかった。以上の結果を踏まえると、牡蠣殻片が高いピーク摩擦を示した理由として、①粒子形状が角ばっているため、回転摩擦が生じにくいこと、②大小さまざまな粒子から構成されているため、集合した粉体が緻密(空隙が少ない)になり、粒子間接触面積が大きくなること、が考えられる。なお、牡蠣殻は産業廃棄物として問題が上がっており、本研究で示された高い摩擦特性を活かした産業利用が期待される。
本研究は、一般市民がすべりにくいと感じた砂を研究対象として扱った「市民科学」の要素を含む。応募した粉体の傾向から、モース硬度をすべりにくさ(摩擦係数)の指標としていた可能性がうかがえる。ただし、本研究ではモース硬度とピーク摩擦の間には正の相関関係は認められなかった。