日本語要旨

北太平洋における結晶質鉄含有粒子とバイオエアロゾルの氷晶核粒子への寄与

氷晶核粒子(INP)は雲の性質を左右し、気候に影響を及ぼす。大気中の鉱物粒子やバイオエアロゾルは氷晶核粒子として働く。それらに加えて、人為起源・燃焼起源に由来するブラックカーボン(スス)も氷晶核として働く。しかし、海洋上のINP予測モデルに組み込まれる必要がないほど、ブラックカーボンの氷晶核能(INA)は小さい。一方、人為起源・燃焼起源に由来するエアロゾルには、結晶質の鉄を含んだ鉱物粒子が含まれる(結晶質鉄含有粒子)。そこで我々は、人為起源・燃焼起源に由来する結晶質鉄含有粒子が、大気中での酸による変質(エイジング)によって表面のアモルファス成分が溶解し、鉱物表面が露出することで氷晶核能が高まるという仮説を提唱する。本研究では、大気化学輸送モデルにエイジングを受けた人為起源・燃焼起源・岩石起源の結晶質鉄含有粒子、および陸域・海洋バイオエアロゾルのINPパラメタリゼーションを導入し、2016年から2019年にかけて北太平洋、ベーリング海、北極海で行われた4回の船舶観測(ブラックカーボンやエアロゾル鉄濃度を含む)と比較した。モデルは、エイジングを受けた人為起源の結晶質鉄含有粒子による年平均の潜在的INP濃度が、−30℃において鉱物起源のものと同程度のオーダー(1−10 L−1)に達することを示した。船舶観測に沿った解析では、−20から−30℃において結晶質鉄含有粒子が潜在的INP濃度の59±25%を占め、陸域バイオエアロゾル(22±27%)や海洋バイオエアロゾル(19±23%)よりも優勢であった。特に2019年10−11月の東アジア大気汚染の下流域にあたる北太平洋西部では、人為起源が−30℃でのINP濃度の30−37%を占めた。また、アジアダストの寄与が小さい冬季には、人為起源の寄与が北太平洋全体で20−40%まで高まることが示された。大気汚染物質の排出削減が進む一方、気候変動に伴い山火事の頻度と規模の増加が予測される中、本研究は大気汚染に由来しエイジングを受けた結晶質鉄含有粒子が海洋上のINPの重要な発生源となりうることを示し、エイジングに伴う氷晶核能変化を定量化するための室内実験や、発生源近傍から下流域にかけての高時間分解能観測の必要性を提言する。