※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.
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日本語Abstract
Research
Interdisciplinary research
巨大津波の塊状サンゴ成長への影響
後藤 和久,本郷 宙軌,渡部 真史,宮澤 啓太郎,久松 明史
Large tsunamis reset growth of massive corals
Goto K, Hongo C, Watanabe M, Miyazawa K, Hisamatsu A
Boulder, Coral, Disaster, Hazard, Ishigaki Island, Tsunami, Tsunami effects on coral, Coral boulder, Numerical modeling
石垣島のサンゴ礁に分布するサンゴは,種多様性が高いことで知られている.この地域は,毎年来襲する台風による高波浪の影響を受けるだけでなく,1771年明和津波に代表されるような高さ30 mに達する巨大津波の来襲も,数百年間隔で繰り返し受けてきた.本研究では,巨大津波によるサンゴへの影響を明らかにするため,石垣島伊原間海岸を対象として現地調査および数値計算を行った.調査の結果,サンゴ礁内に分布する塊状サンゴは数メートルの大きさのものもあるが,岩盤に固着しておらず砂礫質の底質上に分布しており,波浪による影響を受けやすいことがわかった.津波および巨礫移動計算によれば,1771年明和津波規模の津波が来襲すると,極めて速い流速がサンゴ礁周辺で発生し,大小様々なサイズからなる塊状サンゴは,津波により容易に離水,あるいは海岸へ打ち上げられることが明らかとなった.この結果は,1771年明和津波により直径9 mにも達する塊状サンゴが打ち上がったこととも調和的である.さらに,現在,対象地域のサンゴ礁内に分布している塊状サンゴのサイズ分布から,これらは1771年明和津波後に成長を開始したと考えて矛盾はないこともわかった.以上の結果から,1771年明和津波により石垣島東海岸のサンゴ礁内の塊状サンゴは打ち上げられて成長が停止し,その後新たにサンゴ礁内で生まれたサンゴが成長を開始したと考えられる.この地域では,150〜400年程度の間隔で巨大津波が発生しており,塊状サンゴは繰り返す津波により成長と死滅を繰り返してきたものと考えられる.津波発生リスクが高いサンゴ礁地域(太平洋島嶼域など)においては,サンゴの接地状況やサイズによっては同様の現象が起きる可能性が十分に考えられ,こうした地域ではサンゴ礁形成史や保全を考える上で,巨大津波は考慮すべき重要な要素の一つだと言える.
日本語原稿執筆者:後藤 和久(東北大学 災害科学国際研究所)
(敬称略)