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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Solid earth sciences

201609201609

プレート沈み込みの開始と全地球規模でのマントルオーバーターン:自由表面を使った数値シミュレーションモデルによる新しい見解

Crameri F,Tackley P J

Subduction initiation from a stagnant lid and global overturn: new insights from numerical models with a free surface

Crameri F, Tackley P J

Subduction Initiation, Plate Tectonics, Mantle Convection, Numerical Modelling, Planetary Evolution, Geodynamics

自由すべり境界条件と自由表面境界条件で得られた、stagnant-lid 型対流の定常状態の比較。

(左) 自由すべり境界条件を用いた lidC2 の場合、および (右) 自由表面境界条件を用いた lidC5 の場合における、 (局所的高解像度モデリングを用いて) かたい「ふた」の下の小規模対流を調べた結果の比較。いずれの場合も降伏強度深さ依存性を仮定しており、深さ0での (次元つき) 降伏強度 σy,const = 8.7 MPa、降伏強度の (次元なし) 深さ変化率 Δσy = 0.0054 を用いている。

(a, f) 上面の地形の比較。自由表面境界条件の場合 (f) は実際にモデル中で生じた地形を表示しているのに対し、(境界面の変形が許されていない) 自由すべり境界条件の場合 (a) ではその下のマントルの流れが境界面を垂直に押す法線応力から計算される境界面の変形量を示している。

(b, g) 実効的粘性率の分布 (色) と温度 700 K の等値線 (黒線)。

(c, h) 歪速度テンソルの第2不変量。

(d, i) 応力テンソルの第2不変量。(e と j) 水平方向速度。緑が時計回り、青が反時計回りを示す。

仮想的な「空気」 (自由表面境界条件を実装するために導入した、粘性の低い流体) を用いた場合の図では、それが占める領域は灰色の影で示している。黒で塗られた領域は、表示している物理量があるしきい値よりも大きい部分を示す。流れの方向とパターンは、白の矢印あるいは灰色の流線で示されている。

プレートの沈み込みが開始するか否かは、地球のダイナミックな進化の過程、およびそれが太陽系内の他の岩石質天体のものとどう異なっているかを理解する上で重要である。低温の惑星表面には固くてほとんど動かない「ふた」(stagnant lid) が発達するはずだが、それが全地球規模でのマントルオーバーターンに巻き込まれるには「ふた」の破壊が起こらなければならない。過去の研究では数多くの要因(外的なもの・内的なものも含めて)が提案されているものの、どのように「ふた」が破壊されるのかは十分理解できていない。本研究では、マントル対流の時間発展を動力学的に追跡する自己無撞着(セルフコンシステント)な数値モデリング(局所的高解像度モデリングと全地球的大規模モデリングの2種類)によって、プレート沈み込みの開始を調べた結果について紹介する。

われわれの結果より、リソスフェア内の応力の分布、およびそれによって生じるリソスフェアの変形の様式は、マントル対流の上面での境界条件をどのように定式化するかによって大きく異なることが示された。自由表面(境界面の変形が許される)の境界条件のもとで行ったモデリングでは、表面地形の上下変動やプレートの屈曲が可能となることから、プレートが重力によって(プレート自身の傾きに沿って水平方向に)動きやすくなり、さらには表面のプレート運動の収束域で剪断帯がリソスフェアを分断するスケールで形成され、かつそれらは現実の断層とよく似た特徴(狭い幅、および十字状の共役な分布)を示す。このような剪断帯が形成されることで、その付近のマントルの局所的な対流がプレートの沈み込みを誘発するようになる。しかもその効果は、マントル対流の数値モデリングで一般的に使用されている、上面の鉛直方向の変形を許さない(いわゆる「自由すべり」)境界条件下と比べて、自由表面の条件下のほうが顕著である。

これに加えてわれわれは、全地球規模での3次元マントル対流シミュレーションも実施した。このモデリングでは、底面からの加熱によって計算領域の底面から細いマントルプルームが発生するような状況を考慮した。細いマントルプルームがプレートの最下部に衝突すると、局所的に弱くかつ薄くなった部分をもつ断片的なプレートが生成し、かつリソスフェア-アセノスフェア境界の深度が場所によって大きく変動するようになるが、この両者はいずれも沈み込みの開始を誘発する鍵となっていることも示された。

われわれのモデルでは、地表面全体が動かない「ふた」になった状態と、「ふた」の下で高温になったマントル中で全地球規模での素早いマントルオーバーターンが間欠的に起こる状態を、自己無撞着に再現することができる。もし(金星のように)表面に動かない「ふた」ができるような stagnant-lid 型の対流様式にひとたびなってしまった場合には、その惑星の時間的な進化はかたい「ふた」のマントルへの連続的な還流(即ち安定なプレート沈み込み)によって起こるのではなく、間欠的な全地球規模でのマントルオーバーターンによって不連続に起こることが結論づけられる。

日本語原稿執筆者:亀山 真典(愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター)
(敬称略)