※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する50学協会と協力して出版しています.

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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Review

Interdisciplinary research

202104202104

気候と社会・経済システムの相互作用における重要なプロセス・部門の特定:地球-人間システムの統合に向けたレビュー

立入 郁、蘇 宣銘、 松本健一

Identifying key processes and sectors in the interaction between climate and socio-economic systems: a review toward integrating Earth–human systems

Tachiiri K, Su, X, Matsumoto, K

Earth system model, Integrated assessment model, Socio-economic system, Climate system, Human system

地球―人間(社会経済)システム相互作用概念図

地球システムと社会経済システムの相互作用は、温度目標達成の困難さに無視できない影響を与える可能性が指摘されている。本研究では、この相互作用の解析に向けて地球システムモデルと社会経済モデルの結合を検討するため、既往研究のレビューを行った。その主目的は気候変化が社会経済システムに影響を与え、その影響が気候に返ってくるというフィードバックにおける重要性の観点から、考慮すべき重要なプロセス・部門を特定することである。そのため、まず各プロセス/部門について、物理的・生態学的な直接的影響に関する文献レビューを行った。さらに可能な場合には経済生産(GDP)や温室効果ガス(GHG)排出への影響に関する文献もレビューした(また、適応についても簡単に触れた)。その結果、GHG排出量に最も大きな影響を与えるプロセスは土地生産性変化であり、3~5%の影響があった。また、GDPに最も大きな影響を与えるのは労働生産性の変化であり、1~5%の影響がみられた。また、エネルギー部門においては、温度上昇時の冷房需要の増加により、GHG排出量が1%程度増加する場合がある。このほか、保険・金融部門においては、倒産銀行の救済費用がGDPの5~15%に上るという研究例もある(これを扱うには通常の均衡モデルでは不十分であり、エージェントベースの経済モデルが必要である)。このほか、水資源、海面上昇、自然災害、生態系サービス、疾病などもGHG排出量やGDPに無視できない影響を与える可能性が示された。但し、多くのプロセス/部門について、社会経済全体への影響についての定量的評価を伴う文献数がまだ限られており、気候へのフィードバックにおける相対的重要性についての確定的な結論を得るため、より多くの研究の蓄積が待たれる。特に、移民や紛争は、大きな被害をもたらす可能性を持つが、現状では経済的被害やGHG排出への影響の定量的評価は難しく、さらなる研究蓄積が必要である。

立入 郁(海洋研究開発機構 地球環境部門 環境変動予測研究センター)
(敬称略)