※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する学協会と協力して出版しています.

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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Review

Space and planetary sciences

地球近傍の宇宙空間でおこる擾乱のシミュレーション:1.磁気嵐

海老原祐輔

Simulation study of near-Earth space disturbances: 1. Magnetic storms

Ebihara Y.

Magnetic storms, Computer simulation, Magnetosphere, Ionosphere, Inner magnetosphere, and Ring current.

地球近傍の宇宙空間における領域間(宇宙空間、電離圏)結合とエネルギー階層間(プラズマ圏、赤道環電流、放射線帯)結合の模式図。

磁気嵐は汎地球規模でおこる地磁気の乱れである。一般に磁気嵐は2~3日間続き、大きな磁気嵐では地上の磁場が約1%減ることもある。地磁気が乱れる原因は主に地球を取り囲むように流れる赤道環電流にある。宇宙空間には電流を流しやすい導線があるわけではない。電気を帯びた粒子(荷電粒子)が空間中を動くことで電流が流れるのである。赤道環電流の場合、地球近くの宇宙空間に集まったイオンが運動することで巨大な電流を維持している。磁気嵐が発達する期間(主相)では地球近傍にイオンが多く集まり、回復する期間(回復相)ではイオンが散逸する。こうしたイオンの消長を理解することが磁気嵐を理解することの本質であるが、複雑なイオンの運動を把握するのは難しい。そこでシミュレーションが威力を発揮する。地球磁場を双極子と見立て、磁気圏にかかる大規模な対流電場、自転する地球によって生じる共回転電場のもとでイオンの運動を追跡すると、概ね赤道環電流の発達を説明することができる。対流電場は惑星間磁場が南を向き、太陽風速度が高いときに発達する。太陽表面から放出された高温プラズマの塊(コロナ質量放出)や惑星間空間における共回転相互作用領域には強い南向きの磁場と高速太陽風が含まれていることが多い。これらの構造が地球に到来し、条件が良ければ対流電場が発達し、赤道環電流が発達することになる。一方でイオンの消失過程はよく分かっていない。中性大気との電荷交換反応でイオンが失われるためと長らく考えられていたが、消失率を計算すると赤道環電流の回復時間を説明できないことが指摘され、未解決問題となっている。

赤道環電流の興味深い点として、その能動的な役割があげられる。赤道環電流が地球近傍の宇宙空間の磁場を大きく変えることは、その一例である。磁場が変わると地球磁場に捕らえられている全ての荷電粒子の分布を大きく変えてしまう。放射線帯粒子のフラックスが一時的に減少する「赤道環電流効果」は、その顕著な例である。また、赤道環電流で閉じることができない電流は磁力線に沿って地球の電離圏(高さ数100キロメートル付近にある一部が電離した超高層大気)に流れこみ、電離圏の擾乱を引き起こす。電離圏で電流を閉じるために発生した電場は宇宙空間に伝わっていく。この電場は赤道環電流を担う荷電粒子をはじめ、地球近傍の粒子の運動を変える。本論文では、赤道環電流の発達と消失、そして赤道環電流の能動的な役割(領域間結合・エネルギー階層間結合)についてレビューする。

日本語原稿執筆者:海老原祐輔(京都大学 生存圏研究所)
(敬称略)