※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する学協会と協力して出版しています.
日本語Abstract
Research
Interdisciplinary research
201801201801
インド洋・モルジブ堆積物に基づく中新世における高精度な海水準およびモンスーンイベント記録
Christian Betzler et al.
Refinement of Miocene sea-level and monsoon events from the sedimentary record of the Maldives (Indian Ocean)
Christian Betzler et al.
Carbonate platform, Icehouse world, Sea Level, Ocean Circulation, Neogene, Indian Ocean
国際深海科学掘削計画(IODP)の第359次航海では、モルジブの炭酸塩プラットフォーム8カ所で掘削が行われ、新第三紀における海水準変動および南アジアモンスーンの進化のタイミングを明らかにした。まず、初期中新世から中期中新世にかけては海水準変動に伴う堆積パターンが明確に記録されており、それぞれの堆積過程の変化から年代を確定することができた。例えば、中新世中期高温期(MCO)の高海水準期には、プラットフォーム内で顕著な上方累積型の累重様式が見られ、その範囲からMCOが17~15.1 Maの間であったことが示された。その後、東南極氷床の拡大に伴う海水準の低下により、堆積シーケンスはプログラデーション型に変化した。また、12.9~13 Maには、モルジブ諸島全体にわたって堆積パターンの急激な変化が起きており、それまでの海水準変動に伴う堆積パターンから海流が支配するモードへと切り替わっていた。これは、インド洋においてモンスーンの卓越風による海洋循環が開始したことを意味している。南アジアモンスーンの影響が強くなったこの13 Ma以降、ドリフト堆積物は10の不整合で断たれていたが、これは卓越風の強さの変化と海水準変動の影響を相互に受けることで、海流の強さや方向が変化していたことに起因すると考えられる。これまでにもIODPではグレートバハマバンクやクインズランド海台、マリオン海台においても今回同様に炭酸塩プラットフォームの掘削を実施しているが、どの研究においてもまず海水準変動に伴う堆積パターンが見られ、その後、海流の影響をより強く受けたドリフト堆積物が堆積する構造となっている。また、海流の影響を受け始める時期はどのサイトにおいても11~13 Maであり、今回のモルジブでの結果とも整合的である。よってこのような炭酸塩堆積過程の海流支配型への転換は、新第三紀の地球規模の寒冷化における重要な特徴の一つであると言える。
日本語原稿執筆者:井上 麻夕里(岡山大学大学院 自然科学研究科)
(敬称略)