※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する学協会と協力して出版しています.
日本語Abstract
Review
Biogeosciences
201502201502
環境研究および生態学研究において炭素・窒素同位体比を利用するための生化学的・生理学的基礎
大河内直彦,小川奈々子,力石嘉人,田中洋之,和田英太郎
Biochemical and physiological bases for the use of carbon and nitrogen isotopes in environmental and ecological studies
Ohkouchi N, Ogawa N O, Chikaraishi Y, Tanaka H, Wada E
Carbon isotopic composition, Nitrogen isotopic composition, Ecosystem, Food web, Chlorophyll, Trophic position, Amino acid, Animal organ
炭素および窒素安定同位体比は,地球環境や生態系を記述する指標として広く利用されてきた。特に生態学的な研究においては,食物網解析の重要なツールとして同位体生態学と呼ばれる分野を生み出してきた。地球表層環境は,その重要なコンポーネントである生物活動による束縛のもと,強い負のフィードバックのかかったシステムとなっている。その結果,地球表層環境において中心的な役割を果たしている炭素と窒素は,その同位体組成も含めてシステム内できわめて微妙なバランスを保っている。したがって,環境や生態中における炭素・窒素同位体比の分布を深く理解するためには,生物が触媒するプロセス,つまり生化学的あるいは生理学的な側面について立ち入らねばならない。とはいえ,生物の細胞内で起きる生化学反応や生理学的な反応は,地球環境を研究する多くの研究者にとって必ずしもなじみの深いものではない。そこで本論文では,環境―独立栄養生物間,生物―生物間の相互作用を担う細胞内の代謝に焦点を当て,その基礎的な知見をまとめた。特にアミノ酸の脱炭酸および脱アミノ基について述べた。また,同位体比を環境科学や生態学に応用する場合,生物レベルで捉えるより,化合物レベルで捉えた方が役に立つことがある。たとえば,天然環境中に広く分布するクロロフィルは,光合成独立栄養生物のみによって合成される化合物である。それゆえクロロフィルの窒素同位体比は,環境試料中から物理的に分離不可能な微生物やデトリタスなど他の生物の影響を排除し,一次生産者の窒素同位体比情報のシグナル/ノイズ比を上げることに役立つ。また,これまでバルク窒素同位体比によって推定されることの多かった生物の捕食―被食関係は,アミノ酸レベルの窒素同位体比を用いることによってさらに高い精度で推定することができる。本論文では応用例も示しながら,それらの有用性について論じる。
日本語原稿執筆者:大河内 直彦(海洋研究開発機構 生物地球化学研究分野)
(敬称略)