※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する50学協会と協力して出版しています.
日本語Abstract
Review
Solid earth sciences
202310202310
津波データを用いた巨大地震の震源過程研究の進展
谷岡 勇市郎, 山中 悠資
Recent progress in research on source processes of great earthquakes using tsunami data
Yuichiro Tanioka, Yusuke YamanakaYuichiro Tanioka, Yusuke Yamanaka
Research on source processes, Great earthquakes, Progress in tsunami research
2004年スマトラ・アンダマン巨大地震と2011年東北地方太平洋沖巨大地震を契機にさまざまな津波関連データを用いた巨大地震震源過程の研究が大きく進展した。特に2004年スマトラ・アンダマン巨大地震では衛星高度計により津波が観測され、津波解析から破壊伝搬速度が議論できるようになった。2011年東北地方太平洋沖巨大地震による津波については、海底電磁気観測により流速が捉えられ、また津波による上空の電離層のゆらぎ(TEC)がGPSデータの解析により捕らえられ、面的に津波が観測された。さらには、地球を伝播する遠地津波には固体地球の効果が津波の分散性に影響することが解明され、遠地津波波形を利用した巨大地震震源過程の研究を進展させた。これら2つの巨大津波による津波堆積物も詳細に調査され、津波堆積構造から津波の流速等の把握、それらから震源の把握につなげる研究も芽生えた。そこ結果、これらの多様な津波観測データを解析することにより、地震波形解析から得られる震源過程と津波解析から得られる震源過程の違いを議論できるまでに進展した。また、1700年北米カスケード巨大地震や17世紀北海道沖巨大地震の研究を契機に、歴史津波記録や地質学的津波痕跡データを用いた研究が進展した。地震記録が少ないまたは存在しない歴史地震や歴史記録すら存在しない古地震の震源過程が、歴史津波記録や地質学的津波痕跡データを解析することにより把握されるようになってきた。本論文では、これらの巨大地震の震源過程の把握に向けた津波解析技術の開発研究が近年どのように進展してきたかをレビューする。それらの研究成果を受けて、近い将来、津波関連データを用いた巨大地震の震源過程研究がどのような進展することが期待されるかを議論し、研究のさらなる進展への鍵を提供する。
日本語原稿執筆者:谷岡 勇市郎(北海道大学)
(敬称略)