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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Space and planetary sciences

202110202110

アルマハタシッタ隕石中のEL3フラグメント:エンスタタイト・コンドライトの複雑な熱史の研究

木村 眞、Weisberg M.K、高木 阿沙子、今榮 直也、山口 亮

An Almahata Sitta EL3 fragment: implications for the complex thermal history of enstatite chondrites

Kimura M, Weisberg M.K, Takaki A, Imae N, Yamaguchi A

Enstatite chondrite, Breccia, Thermal history, Opaque minerals

Mg (赤), Ca (緑), and Al (青)の複合元素マップ。コンドルールは明瞭な輪郭を示す。ダイオプサイド(黄緑)が多く含まれる。写真の横幅は1.3 cm。

アルマハタシッタ隕石は、多くの種類のフラグメントからなるポリミクト角礫岩である。本論では、この隕石に含まれるEL3フラグメント(MS-177)を鉱物学的および岩石学的に研究した。なお、ELは他のコンドライトより還元的な環境下で生じたエンスタタイト・コンドライトに属する隕石種である。MS-177は明瞭な輪郭を示すコンドルール、ケイ酸塩鉱物および不透明鉱物片からなり、典型的な岩石学的タイプ3のコンドライト組織を呈する。ほとんどのコンドルールはほぼ純粋なエンスタタイトとその粒間を埋めるガラスないしは斜長石、シリカ鉱物から構成されているが、一部のコンドルールはフォルステライトを含む。これらの組織や鉱物はEL3コンドライトに典型的なものであるが、鉱物の存在量と組成は他のEL3とは異なる。MS-177にはダイオプサイドがより多く含まれる(図参照)。一方、エンスタタイト・コンドライトに典型的なペリアイト((Ni,Fe)8(Si,P)3)、ドーブレーアイト(FeCr2S4)などはMS-177には含まれないが、カイルアイト((Fe,Mg,Mn)S)やブセッカイト((Fe,Zn)S)といった希少鉱物が含まれる。MS-177の主要な輝石は直方エンスタタイトでシリカ相は石英であるが、EL3には通常単斜エンスタタイトやクリストバライトが含まれる。Fe-Ni金属は他のEL3より高いP含有量を持つ。トロイライトはCrとMnに富む。これらの組織と鉱物組成および種々の地質温度計から、MS-177はサブソリダス条件下で高温イベントを経験したことが明らかになった。衝撃作用が熱源として有力である。これは、暗色化組織やエンスタタイトの衝撃組織などの観察とも一致する。これまで、エンスタタイト・コンドライトは岩石学的タイプと熱履歴が一致しないと指摘されていたが、本研究から母天体での衝撃作用がその原因である可能性が高いことが明らかになった。一方、ダイオプサイドが多く含まれる原因は以上のような二次的加熱では説明できず、母天体に集積する以前の凝縮や溶融作用などによるものと考えられる。

日本語原稿執筆者:木村 眞(国立極地研究所)
(敬称略)