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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Solid earth sciences

202009202009

千葉複合セクションにおける松山-ブルン地磁気逆転の全容

羽田 裕貴,岡田 誠,菅沼 悠介,北村 天宏

A full sequence of the Matuyama–Brunhes geomagnetic reversal in the Chiba composite section, Central Japan

Haneda Y, Okada M, Suganuma Y, Kitamura T

Paleomagnetism, Rock-magnetism, Matuyama–Brunhes geomagnetic reversal, Matuyama–Brunhes boundary, Relative paleointensity, Chiba composite section, Chiba section, GSSP, Chibanian Stage/Age, Lower–Middle Pleistocene boundary

千葉複合セクションの古地磁気記録.上図:仮想地磁気極の分布.中図:古地磁気強度の指標.下図:仮想地磁気極の緯度の時系列変動.

最後の地磁気逆転イベントである松山-ブルン地磁気逆転は,地質記録の年代制約や地磁気の変動メカニズムを解明する上で重要である.近年の溶岩を用いた古地磁気研究から,松山-ブルン地磁気逆転は,数万年間にわたる双極子磁場の減衰と複数回の数千年スケールの地磁気変動を伴うイベントであることが報告されている.しかし,松山-ブルン地磁気逆転の全体像を把握するには堆積物を用いた連続的かつ詳細な古地磁気記録の解析が不可欠である.本研究では,前期-中期更新世境界の海成堆積物である千葉複合セクション(養老川,養老田淵,小草畑,柳川,浦白セクションの総称)における古地磁気・岩石磁気の未測定層序区間を対象として同測定を行い,先行研究のデータと統合して,794〜748 kaの年代区間における松山-ブルン地磁気逆転の全体像を復元した.

養老田淵セクションの最下部約4 mと養老川セクションの上位約36 mの層序区間から新たに古地磁気記録を得た.その結果,養老田淵セクションではByk-E火山灰層の上位1.1〜2.1 mで古地磁気極性が逆極性から正極性に逆転し,その中間である1.6 mの層準を松山-ブルン境界と認定することができた.また,千葉・柳川セクションと千葉セクション近傍で掘削されたTB-2コアの先行研究による古地磁気記録を用いて,千葉複合セクションにおける松山-ブルン境界の平均層位がByk-E火山灰層の上位1.1 ± 0.3 m,年代誤差と層位の誤差を考慮した平均年代値が772.9 ± 5.4 kaであることを明らかにした.さらに,先行研究のデータと統合することで794〜748 kaの間において連続的な古地磁気記録を得た.古地磁気方位は783 kaから763 kaの間に数度にわたって不安定な状態となり,それらは古地磁気強度の減少のタイミングと一致する.その後,古地磁気強度は松山-ブルン境界以前よりも大きい値に回復し,それに伴って古地磁気方位は安定な正極性を示すことが分かった.このことは,783〜763 kaの2万年間にわたって双極子磁場が減衰する間に,非双極子磁場成分が卓越するイベントが存在していた可能性を示す。今回得られた千葉複合セクションの古地磁気記録は,現在得られる中で最も詳細な松山-ブルン地磁気逆転記録の一つであり,今後地磁気逆転メカニズムの解明の一助になる.

日本語原稿執筆者:羽田 裕貴(産業技術総合研究所)
(敬称略)