※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.
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日本語Abstract
Research
Human geosciences
函館に被害を及ぼした2001年東北地方太平洋沖津波後続波の発生メカニズム
谷岡勇市郎,柴田 瑞穂,山中 悠資,グスマン リアディ アディティア,伊尾木 圭衣
Generation mechanism of large later phases of the 2011 Tohoku-oki tsunami causing damages in Hakodate, Hokkaido, Japan
Tanioka Y, Shibata M, Yamanaka Y, Gusman AR, Ioki K.
Tsunami numerical simulation, Resonance of Hakodate Bay, Large late phase, 2011 Tohoku-oki earthquake.
函館湾の津波励起過程の解明、特に地震発生後9時間後の最大波の形成過程。左)津波数値計算による函館周辺域の各時刻での波高分布。右上)函館での観測津波波形と計算波形の比較。右下)函館湾の基本モードの固有関数(波高分布)。
2011年東北地方太平洋沖地震による津波は,日本の太平洋側沿岸域に甚大な被害を及ぼした。特に,東北地方太平洋沿岸域は,最初の数波の津波により大きな被害が発生したとされている。しかし、驚くことに、北海道太平洋沿岸の函館では地震発生から9時間後に最大波が到達し,被害を大きくした。この非常に遅れた大きな後続波の発生メカニズムを解明することは,今後の災害軽減に重要である。まず、線形長波近似式と遡上を考慮した非線形長波近似式の2つの支配方程式を用いて津波を計算した。その結果,函館での後続波は,遡上を考慮した非線形長波近似式でないと上手く再現できないことが分かった。これは,函館の後続波は東北地方の太平洋沿岸で陸上奥まで遡上を繰り返し、また反射してきた津波が函館に到達したことを意味する。次に,函館で観測された津波波形のスペクトル解析を実施した。その結果,地震発生後7.5から9.5時間後に到達した後続波には,45-50分の周期が卓越することが分かった。さらに函館湾のノーマルモード解析を実施し、各モードの固有周期と固有関数(高さ分布)を計算した。その結果,函館湾の基本モードの固有周期は約50分であることが分かった。さらに、津波数値計算結果の函館周辺での津波波高分布からも,函館湾が周期約50分程度で上下していることが明らかになった。加えて、励起された基本モードの固有関数(高さ分布)は,函館の市街地沿岸で最も高いことが分かった。この結果は,将来発生する巨大津波に対しても同様に,函館湾の基本モードが励起されるだろうことを示しており、その場合やはり市街地沿岸に大きな津波が遅れて到達すると考えられる。つまり、本研究成果は函館市での津波避難対応や津波防災対策を考える上で重要な示唆を与える。
日本語原稿執筆者:谷岡勇市郎(北海道大学 理学研究院 地震火山研究観測センター)
(敬称略)