※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.

※Progress in Earth and Planetary Science は,独立行政法人日本学術振興会JSPSより科学研究費助成事業(科学研究費補助金)のサポートを受けています.

>>日本地球惑星科学連合

>>参加51学協会へのリンク

  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Solid earth sciences

フィリピン海スラブの変形から推定した中部日本の短縮速度

深畑 幸俊

Estimate of the contraction rate of central Japan through the deformation of the Philippine Sea slab

Fukahata Y

Philippine Sea slab, central Japan, contraction rate, strain rate

(a)フィリピン海スラブの地形(黒のコンター)。青・緑・赤・紫の各測線は、それぞれ3・4・5・6百万年前に南海トラフ(灰色の測線)に位置していた。(b)各測線におけるフィリピン海スラブの地形断面。(c)各測線におけるフィリピン海スラブの短縮量。隣り合う測線間の短縮量の差を取ることにより、最近百万年間の短縮速度が得られる。

日本の本州の大部分は強い東西圧縮の場にあるが、その短縮速度は良く分かっていない。その推定には、歪み速度パラドックスとして知られる問題がある。即ち、測地学的手法で得られる歪み速度は10-7/yrを越える一方、地質学的手法で推定されたそれは一桁近くも小さいのである。測地観測の期間を過去に延ばすことは不可能であり、地質学的手法の精度を上げることもまた容易ではない。そこで、この問題に対する全く新しいアプローチとして、日本列島下で顕著な変形をしているフィリピン海スラブに着目した。

フィリピン海スラブは、紀伊半島下で谷を、伊勢湾下で尾根を形成するなど大規模な東西短縮を被ってきたことを示している(図a)。また、フィリピン海スラブの変形は、中部・近畿地方下で大きい一方、四国・中国地方下で小さい、太平洋沖合から沿岸部で小さい一方、内陸部で大きいという特徴を持ち、地表の変形パターンと非常に整合的である。そこで、フィリピン海スラブの変形速度を地表の変形速度の代替指標(プロキシ)として用いることができるのではないかと考えた。ここでのポイントは、フィリピン海スラブは、沈み込む前は当然ながらほとんど変形していないということである。つまり、現在観察される変形は全て沈み込み開始後に生じたものと見なせるので、その変形速度を比較的精度良く推定することができる。

具体的には、まず南海トラフに平行な測線を何本か取り、その地形断面を描いた(図b)。ここで、色の異なる各線は、沈み込み期間の百万年毎の違いに対応している。次いで、各測線の長さをその水平距離と比較することによって各測線の短縮量を求め(図c)、さらに隣り合う測線間の短縮量の差を取ることにより、最近百万年間の短縮速度を推定した。ここで、フィリピン海スラブの形状は、日本列島に固定した座標系で見て、変化しないと仮定している。得られた歪み速度は、太平洋沖合および北端部を除く四国地方下では小さい(0.2×10-8/yr以下)一方、中部・近畿地方下の内陸部では4~7×10-7/yrに達した。但し、この見積もりは、紀伊水道下でフィリピン海スラブが断裂していた場合には20%ほど小さくなる。フィリピン海スラブの変形から推定された中部・近畿地方の内陸部の歪み速度は、測地学的歪み速度より小さい一方、地質学的歪み速度よりも大きい値となった。

日本語原稿執筆者:深畑 幸俊(京都大学 防災研究所 地震予知研究センター)
(敬称略)