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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Biogeosciences

マリアナ前弧・南チャモロ蛇紋岩海山の掘削後観測:微生物生息と非生物有機合成の可能性

川口 慎介,宮崎 淳一,諸野 祐樹,SEEWALD JS,WHEAT CG,高井 研

Cool, alkaline serpentinite formation fluid regime with scarce microbial habitability and possible abiotic synthesis beneath the South Chamorro Seamount

Kawagucci S, Miyazaki J, Morono Y, Seewald JS, Wheat CG, Takai K

Forearc serpentinite mud volcano, South Chamorro Seamount, Limit of biosphere, Present-days’ chemical evolution, Radio-isotope-tracer carbon assimilation estimation

南チャモロ海山で起こっている一連の地球化学過程についての仮説提案図

蛇紋岩化は、生命の起源あるいは宇宙生物を議論する上での一大トピックとなっている。これは「蛇紋岩化に伴い発生する水素ガスがメタン生成代謝の基質となり始原的化学合成生態系を養っていた(=共通祖先研究)」「蛇紋岩化に伴い生じる還元的な液相環境において炭酸還元による有機合成が進行し始原生物体の構成有機物を供給した(=化学進化研究)」という二大学説に一定の支持が集まっているからであろう。これらの学説を検証すべく、現在の地球上に偏在する蛇紋岩化域の現場観測研究が活発に行われている。多様な蛇紋岩化域の中でも、深海の蛇紋岩海山は、スラブ脱水を起源とするため生物や有機物の混入がかなり少ないこと、テクトニックスケールの地球物理観測や山体鉱物組成から経験した最高温度・圧力条件を推定できることなどから、特に化学進化研究について適した場である。

南チャモロ海山は、マリアナ前弧に位置するブルーシストを伴う蛇紋岩泥火山である。2001年に実施されたODP掘削により、(海水の影響を受ける表層部を除き)山体の間隙水がpH12を超えるアルカリ性であり硫酸を豊富に含むことが明らかにされ、これはスラブに由来する流体が蛇紋岩化を引き起こした結果であると考えられている。本研究では、ODP Hole1200C孔に挿入されたケーシングパイプの先端から湧出する摂氏2度の流体(CORK流体)を採取・解析した。CORK流体は、pHや保存性成分がODP間隙水と一致しており、山体内部流体を起源とすることが確認できた。一方で、ODP間隙水とは異なり、硫酸が枯渇していた。アルカリ度や硫化物などから、掘削後のCORK流体では硫酸還元−メタン酸化が進行していると考えられた。なお硫酸が枯渇したCORK流体にもメタンは豊富に残存していた。メタンを中心とした炭素水素同位体システマチクスは、メタンの起源について決定的な情報とはならなかった。CORK流体の菌密度は周囲の海水に比べ有意に低く、微生物DNA群集解析では超好熱菌や好塩菌が検出されたが、これらの微生物が冷たくアルカリ性の山体内で生息しているとは考えにくい。放射性炭素同位体ラベル基質を用いたポテンシャル活性測定でも流体の化学組成に影響するほど高い活性は検出されなかった。以上の観測結果から、(掘削の影響を受けていない)南チャモロ海山の内部には、高濃度の硫酸とメタンが共存していることが推定されるが、これは極めて珍しい状況である。硫酸とメタンの起源とともに両者の共存を調和的に説明するべく、南チャモロ海山で起こっている一連の地球化学過程について図に示す仮説を提案した。

日本語原稿執筆者:川口 慎介(海洋研究開発機構)
(敬称略)