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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Atmospheric and hydrospheric sciences

バングラデシュにおける降水の安定同位体組成とその起源の季節変動

田上 雅浩,一柳 錦平,芳村 圭,木口 雅司,寺尾 徹,林 泰一

Seasonal variation in isotopic composition and the origin of precipitation over Bangladesh

Tanoue M, Ichiyanagi K, Yoshimura K, Kiguchi M, Terao T, Hayashi T

Isotopic composition of precipitation, Bangladesh, Origins of precipitation, Isotope-incorporating atmospheric general circulation model, Indian summer monsoon

(a)NCEP OLRによるバングラデシュ周辺域(85°E–97.5°E)における組織的な対流活動の推移。青色のシェードは対流活動が活発な領域を意味する。(b)2010年に観測されたダッカにおける降水の安定同位体組成(☓印)と降水量(棒グラフ)の日変化。(c) 同位体大気循環モデルによって推定された鉛直積算水蒸気量とその内訳の日変化。色の違いは水蒸気起源の違いを意味する。

インド亜大陸における過去の降水プロキシ(年輪,鍾乳石など)に含まれる水の安定同位体組成(δ18OおよびδD)は、過去のインド夏季モンスーン(ISM)の変動をより深く理解し、解釈することを可能にするツールである。これまでの研究では、インド亜大陸周辺における降水の安定同位体組成は降水の起源(降水のもととなる水蒸気が蒸発した地域)によって支配されていることが示唆されてきた。しかしながら、この地域における降水は陸上から蒸発した水蒸気の影響が大きいにも関わらず、既往研究ではラグランジュ的なアプローチを基にしていたため、陸上から蒸発した水蒸気が降水に寄与する割合が定量化されていなかった。そこで、我々は2010年にバングラデシュの3地点において降水の安定同位体組成を観測し、水の安定同位体組成を組み込んだ大気大循環モデル(同位体大気大循環モデル)を用いて、オイラー的なアプローチにより降水の起源を推定し、その変動要因を考察した。この観測では、降水量の時間的な変動特性は観測地点間ごとに異なっていたが、降水の安定同位体組成の季節変動および季節内変動(2~4週間程度)は地点間で類似していた。また、この降水の安定同位体組成の季節内変動は、バングラデシュ周辺域における組織的な対流活動域の推移と関連していた。同位体大気大循環モデルによるシミュレーション結果は、3月中旬から6月上旬までのpre monsoon期の降水は、ベンガル湾とアラビア海から蒸発し,高いδ18Oを持つことを示した。ISM期(6月中旬から10月初旬)の降水は、主にインド洋から蒸発した水蒸気が寄与しており、ベンガル湾とアラビア海からの寄与は減少した。インド洋から蒸発した水蒸気は、水蒸気が輸送される際に、降水によってδ18Oが減少した。Post-monsoon期(10月中旬〜11月)の降水は、これらの海域から蒸発した水蒸気の寄与は低かったが、太平洋や陸域から蒸発した水蒸気の寄与が高かった。このPost-monsoon期に陸域から蒸発した水蒸気は、ISM期にもたらされた低いδ18Oを持つ降水に起因するため、ポスト・モンスーン期における降水のδ18Oを減少させたと考えられた。以上の結果は、降水の起源と組織的な対流活動の推移が、この地域における降水の安定同位体組成の変動を支配する要因であることを示唆しており、水の安定同位体組成の変動からモンスーンの開始と終了を同定するのに有用である。

日本語原稿執筆者:田上 雅浩(芝浦工業大学 土木工学科)
(敬称略)