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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Review

Solid earth sciences

GNSSデータの非線形ダイナミクス解析:定量化、先行現象と同期現象

Hobbs B, Ord A

Nonlinear dynamical analysis of GNSS data: quantification, precursors and synchronization

Hobbs B, Ord A

GNSS time series, Nonlinear analysis, Dynamical systems, Recurrence plots, Recurrence quantification analysis (RQA), Cross and joint recurrence plots, Crustal deformation, Precursors, Synchronisation

ニュージーランドのGNSSデータに見られる同期現象。CNST(下)とKAIK(左)の座標値(東西成分、トレンド除去済み)のジョイント・リカレンスプロット(中央)。大規模なスロースリップイベント(~800日、~2100日、330日)の直前の250〜400日前の期間に対角線上に相関が集中し、同期現象が起きていることを示している。

固体地球のテクトニクスは、地球内部を構成する多くの要素間の複雑な非線形相互作用によって支配されている。しかし、GNSSを始めとする近年の精密観測をもってしても、観測により得られる地表変位の時空間的なパターンから、背後でそれを駆動している複雑な相互作用系のダイナミクスを解き明かすことは大変困難な課題である。本論文において、著者らは、非線形システム解析の手法をニュージーランドのGNSS座標値データに適用し、こうした問題に取り組んだ。非線形システムの特徴はデータから生成されるリカレンスプロットによって表現され、システムの不変量として埋め込み次元(embedded dimension)、最大リャプノフ指数(maximum Lyapunov exponent)、エントロピー等が抽出される。さらに、再帰定量化解析(RQA)によって得られるいくつかの定量的な指標により非線形システムは特徴づけられる。GNSSデータを解析した結果、データ中の顕著な変化に先行していくつかのRQA指標に変化が現れることが見出された。また、600 km離れた2地点の座標値データに同期現象が見つかった。この同期現象は大きな変位イベントの250〜400日前から現れ、イベントの直前で見られなくなる(図)。これらの結果は、観測された地殻変動の背後に非線形の相互作用システムが存在することを示唆する。本論文では、GNSSデータを非線形システムの出力として見直すことにより、通常の線形応答を仮定した解析では見えない複雑な相互作用系の振る舞いの一端を垣間見ることができた。こうした非線形相互作用系の振る舞いの理解をより多くのデータの解析を通して進めること、さらに、非線形相互作用の物理的実体を解明していくことは今後の課題である。

日本語原稿執筆者:鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)
(敬称略)