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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Atmospheric and hydrospheric sciences

カンボジアにおける降水の日周変化:その地域特性と局地循環

辻本 久美子,太田 哲,会田 健太郎,玉川 勝徳,Monichoth So Im

Diurnal pattern of rainfall in Cambodia: its regional characteristics and local circulation

Tsujimoto K, Ohta T, Aida K, Tamakawa K, Monichoth So Im

Diurnal pattern of rainfall, Local circulation, Land breeze, Sea/lake breeze, Katabatic wind, Anabatic wind, Asian summer monsoon, Cambodia, Indochina Peninsula, Tonle Sap Lake

2011年における降水頻度の日付(縦軸)-時刻(横軸)分布.北部(N),南西平野域(S),南西山岳域(M),南西沿岸域(C)の4つの地域別に,各日時における全地点数に対する降水観測地点数の百分率を青色濃淡で示している.4本の赤色横線は,3月1日,夏季アジアモンスーン開始日,夏季アジアモンスーン終了日,11月30日を示す.黄色の縦網掛は各地域・各季節で平均的に降水ピークが見られる時間帯を示しており,橙色横破線はそれとは異なる時間帯に降水が見られたり日周変化が不明瞭な日を示す.左の2つの図はJRA-55再解析データによる広域大気場の状態を示しており,850hPa面のジオポテンシャル高度(Φ)と,700hPa(灰色線)および850hPa面(黒色線)での東西風(u)について,カンボジア上空域(102–108°E,10–15°N)平均値07:00LTについて示している.

カンボジアにおいて2010~2015年に30地点の雨量計で観測した時間雨量データを用いて降水日周変化およびその地域特性について解析し,その降水メカニズムについて考察した.観測の結果,カンボジア内陸部の2010~2015年の年間降水量は1087~1528mm(観測所平均)であった.年間降水量のおよそ5~20%はプレモンスーン期に,50~78%は夏季モンスーン期に,12~36%はポストモンスーン期に降っており,夏季モンスーン期以外に降る量も当地の年間降水量に対して十分に多いことが確認された.プレモンスーン期には,降水は沿岸域およびカルダモム山地では午後に多かった.一方,トンレサップ湖周辺域では降水量が少なかった.夏季モンスーン期には,カンボジア内陸部の降水量は北部で多く西部で少ない空間分布を示しており,年間降水量に占めるこの期間の降水量も同様の地域特性を有していた.また,沿岸域の降水量は内陸部に比べて極めて多かった.降水の日周変化特性は地域によって異なっており,降水ピークが見られるのは,カルダモム山地では午後の早い時間帯,トンレサップ湖南西側平野部では午後(のより遅い時間帯),トンレサップ湖北東側の広い地域では夕方(さらに遅い時間帯),沿岸域では早朝であった.カンボジア内陸部において日周変化特性に地域差が見られることは,夏季モンスーン期における当地の降水に対しても,アジアモンスーンに加えて何らかの局地的影響が存在していることを示唆している.ポストモンスーン期には,降水量はトンレサップ湖南西側で多く,特に夜間に多かった.ただし,これらの日周変化特性は各季節において毎日同じように出現するのではなく,日周変化の明瞭・不明瞭の程度は広域大気場の低気圧や擾乱の影響を受けている.雨量計と併せて設置した地上気象観測データからは,観測された日周変化特性とその地域特性に対し,湖陸循環および山谷循環が影響している可能性が示唆されたが,より詳細なメカニズムについては今後数値解析によって検討する必要がある.陸面の状況・動態が降水に与える局地的影響に関する考察は,陸面の時空間的多様性が大きいカンボジアの降水メカニズムをより深く理解し洪水・渇水管理を行う上で重要である.

日本語原稿執筆者:辻本 久美子(岡山大学 大学院環境生命科学研究科)
(敬称略)