※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.
※Progress in Earth and Planetary Science は,独立行政法人日本学術振興会JSPSより科学研究費助成事業(科学研究費補助金)のサポートを受けています.
日本語Abstract
Research
Atmospheric and hydrospheric sciences
201805201805
ベトナム・紅河流域を対象とした力学的及び統計的ダウンスケーリングの複合による高解像度降雨予測
Quan Tran Anh,谷口 健司
Coupling dynamical and statistical downscaling for high-resolution rainfall forecasting: case study of the Red River Delta, Vietnam
Quan Tran Anh, Kenji Taniguchi
Dynamical Downscaling, Statistical downscaling, ANN, WRF, Rainfall
2006年6月から8月の総降雨量分布.M4n,M4a,M4as及びM5nはANNによる予測結果.BIP-RD1はバイリニア補間により詳細化を行った結果.RD2T及びRD1Tは,領域気象モデルを用いた力学的ダウンスケーリングより得られた空間解像度6km及び30kmの降雨量分布.
高空間解像度の気候変化情報の構築を目的とした力学的及び統計的手法を組み合わせた複合的ダウンスケーリング手法が進められている.本研究では,ベトナム北部を流れる紅河流域を対象として,領域気象モデルによるシミュレーションと人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network:ANN)による予測を組み合わせた日降雨量情報のダウンスケーリング手法を構築した.まず,再解析データを初期値及び境界条件とした領域気象モデルを用いたシミュレーションにより,空間解像度30km及び6kmの力学的ダウンスケーリングを実施した.次に,上記ダウンスケーリング結果を用いて,空間解像度30kmのシミュレーション結果から,空間解像度6kmの降雨分布情報を予測するために,ANNによる学習を実施した.ANNの学習においては,入力値とする変数の組み合わせや,ANNの構成を様々に変更し,最適な設定を検討した.領域気象モデルにおいては,ごくわずかな降雨も出力されるが,ANNの学習において微小な降雨をも対象とした場合には,予測結果が過少となる傾向がみられたことから,入力値とするデータにおいて日降雨量0.5mm未満の降雨については無降雨として補正したデータセットを用いて学習することで予測精度に向上がみられた.また,降雨イベントのみを対象とした学習を実施することによって,さらに予測精度が向上した.複数の設定によるANNを構築し,夏季の降雨量に関する予測実験を実施したところ,精度の高いANNによる予測結果においては,低空間解像度では見られなかった極値が表現され,対象期間における総降雨量の空間分布の相関係数が0.9を上回るとの結果を得た.また,領域気象モデルを用いた力学的ダウンスケーリングによって空間解像度6kmの日降雨量情報を得るのに比べて,空間解像度30kmの力学的ダウンスケーリングとANNによる空間解像度6kmの日降雨量予測を実施する場合では89%もの計算コストの削減が実現された.
日本語原稿執筆者:谷口 健司(金沢大学 理工研究域 地球社会基盤学系)
(敬称略)