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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Atmospheric and hydrospheric sciences

201708201708

フィリピン西部の降水量への海面水温の潜在的な影響

Dado J M B, 高橋 洋

Potential impact of sea surface temperature on rainfall over the western Philippines

Dado J M B and Takahashi H G

Summer monsoon, Rainfall, Sea surface temperature, Regional climate model

フィリピンの西の海面水温偏差に対するフィリピン西部の月降水量の感度(回帰係数)の空間分布。単位は、mm K-1。1982年から2012年までの31年の実験をもとにして、6月(a)、7月(b)、8月(c)について、それぞれ示した。統計的な有意性(90%)について、"プラス"の記号で地図中に示した。統計的な有意性は自由度を29として、相関係数で決定した。降水量の感度は、1°格子の空間解像度に変換して評価した。フィリピン西部では、有意な正の回帰係数が見られるので、フィリピン近傍の風上側の海面水温が高い年には、フィリピン西部の降水量が多くなることを示している。

本研究は、水平解像度5kmの領域気候モデル(Advanced Research Weather Research and Forecasting Model)を用いて、フィリピン西部の降水量に対して、同地域近傍の風上側の海面水温(SST)が、どの程度影響を与えているかについて定量的に評価した研究である。一連の標準実験(CTL)として、ERA-interim再解析とOISST海面水温データを初期境界値として、1982年から2012年までの31年間の各年の6月から8月を対象にシミュレーションを行った。感度実験(CLIM)として、CTLと同様の実験を実施したが、SSTの年々変動の降水への影響を調べるために、CTLでの下部境界のSSTを31年間の気候平均値のSSTに差し替えてシミュレーションを行った。これらのCTLとCLIMの差から、SSTの感度を取り出せる。この研究では、フィリピン近傍のSSTの影響を研究対象としており、SSTの遠隔影響(エルニーニョ現象の影響などのテレコネクション)は研究対象範囲外である。アジアモンスーンの降水量に対するSSTの遠隔影響の研究は多いが、近傍のSSTの影響を調べた研究は少ない。CTL実験の結果を、降水量の観測データと比較したところ、フィリピンでの降水量の時空間変動をよく再現していた。また、フィリピン西部の降水量の年々変動についても、よく再現されていた。結果として、フィリピンの風上側のSSTの偏差は、フィリピン西部の降水量に対して、正の感度を示した。また、海面からの潜熱も正の感度を示した。この結果は、フィリピン西部の夏季降水量は、モンスーン西風による影響が大きいことは知られていたが、さらに近傍のSSTにも影響を受けていることを示唆している。SST上昇に対する潜熱の増加は、20%から40%であり、クラウジウス・クラペイロンの式の示す約7%を大きく上回っていた。この潜熱の増加は、二つの効果によって説明できる。一つはSST上昇に伴う下層風の強化であり、もう一つは、地上気温の上昇がSST上昇よりも小さいことによって水面と水面直上での水蒸気量差の増加する効果である。

日本語原稿執筆者:高橋 洋(首都大学東京 地理学教室)
(敬称略)