※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.

※Progress in Earth and Planetary Science は,独立行政法人日本学術振興会JSPSより科学研究費助成事業(科学研究費補助金)のサポートを受けています.

>>日本地球惑星科学連合

>>参加51学協会へのリンク

  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Atmospheric and hydrospheric sciences

201708201708

中世温暖期と小氷期とで異なる夏季アジアモンスーンの季節進行 ―マルチ気候モデルによる検証―

釜江 陽一,川名 冬士,大城 萌美,植田 宏昭

Seasonal modulation of the Asian summer monsoon between the Medieval Warm Period and Little Ice Age: a multi model study

Kamae Y, Kawana T, Oshiro M, Ueda H

Asian monsoon, Medieval Warm Period, Little Ice Age, Meridional thermal gradient, Orbital forcing

小氷期と比較した中世温暖期の夏季アジアモンスーンの再現結果.10種類の気候モデルにより実施された過去1,000年間の気候再現実験の結果を,(左)4月から6月,(右)8月から10月までを平均したもの.緑・茶色は中世温暖期の降水量が小氷期に比べて多い・少ないことを示し,点描はモデル間の一貫した変化を示す.灰色・黒線は小氷期の降水量分布を示す.

地球上の気候は1,000年前から現在にかけて,太陽輝度や地球軌道要素の変動,火山噴火,人間活動の影響によって大きく変動していた.このうち,比較的温暖・寒冷な時代とされる,西暦950-1,250年の中世温暖期と西暦1,400-1,700年の小氷期に注目し,アジアモンスーンの特徴を調査した.数値気候モデルによるシミュレーション結果やプロキシデータは,小氷期と比べて,中世温暖期に夏季アジアモンスーンが強まっていたことを示している.複数の気候モデルによって実施された実験結果を検証することにより,中世温暖期と小氷期の間で,軌道要素の長期変動の結果として北半球の太陽入射量の季節配分が変わっていたために,夏季アジアモンスーンの季節進行の様相が異なっていた可能性を見出した.軌道要素を含む歴史的な境界条件をもとに実施された10種類の気候モデル実験は,小氷期と比較して,一貫して中世温暖期の夏季アジアモンスーンが晩夏に強まり,初夏に弱まっていたことを示している.小氷期と比較して,中世温暖期の北半球の入射量は,冬から6月までは弱く,6月以降になると強まる.これにより,季節の進行に伴うユーラシア大陸上の大気が暖まる時期が変わり,海陸間の温度コントラスト,大気循環,降水量の分布も変わる.このように季節によって異なるモンスーンの応答は,複数の気候モデルの間で一貫して確認されるとともに,軌道要素の違いのみを考慮した感度実験にも確認される.本研究の結果は,緩やかな地球軌道要素の変動が,百年規模でアジアモンスーンの季節進行を変えうることを示している.

日本語原稿執筆者:釜江 陽一(筑波大学 生命環境系)
(敬称略)