※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.
※Progress in Earth and Planetary Science は,独立行政法人日本学術振興会JSPSより科学研究費助成事業(科学研究費補助金)のサポートを受けています.
日本語Abstract
Research
Solid earth sciences
Session convener-recommended article JpGU Meeting 2015
201703201703
様々な密度差の重力流を記述する浅水波方程式の数値モデル
志水 宏行,小屋口 剛博,鈴木 雄治郎
A numerical shallow-water model for gravity currents for a wide range of density differences
Shimizu H A, Koyaguchi T, Suzuki Y J
Gravity currents, Numerical model, Shallow-water model, Front condition
火砕流の2層モデルの数値計算結果.ρc ⁄ ρa = 102 – 103 をもつ下部高密度流の無次元高さ(hH)と ρc ⁄ ρa = 100 – 101 をもつ上部低密度流の無次元高さ(hL + hH)が示されている.(a) 無次元時間 t = 1,(b) t = 10.
周囲流体との密度差を駆動力に流動する重力流は,地球表層での質量運搬において重要な役割を担う.その重力流の密度ρcと周囲流体の密度 ρa の比(ρc ⁄ ρa)は,100 から 103 まで幅広い値を取り得る(例えば,岩屑流では ρc ⁄ ρa ~103,混濁流では ρc ⁄ ρa ~100,火砕流の上部では ρc ⁄ ρa = 100 – 101,火砕流の下部では ρc ⁄ ρa = 102 – 103).本論文の目的は,浅水波方程式に基づき,様々な密度比 ρc ⁄ ρa の重力流のダイナミクスを記述する数値モデルを開発することにある.浅水波方程式系では,密度比 ρc ⁄ ρa の効果は,流れの先端における駆動圧と周囲抵抗圧の力学的バランスを表す先端条件によって評価される.先行研究では,先端条件を解くための数値モデルとして,先端条件を各時間ステップで境界条件として計算する Boundary Condition (BC) model と,流れの先端よりも先の領域に厚さの薄い仮想流体層を置くことによって先端条件を計算する Artificial Bed (AB) model が提案されている.本論文では,それらの数値解を密度比 ρc ⁄ ρa が様々な均質重力流の解析解と比較することによって,BC modelとAB model の適用範囲を評価した.BC model の数値解は,ρc ⁄ ρa ≲ 102 の解析解とよく一致するが,ρc ⁄ ρa ≳ 102 の計算では先端の速度を過大評価する傾向がある.一方,AB model は,十分に厚さの薄い仮想流体層を与えることによって,ρc ⁄ ρa ≳ 102 の解析解を上手く再現することができるが,ρc ⁄ ρa ≲ 102 の解析解を再現することはできない.これらの結果に基づき,火砕流上部(ρc ⁄ ρa = 100 – 101)に BC model を,火砕流下部(ρc ⁄ ρa = 102 – 103)に AB model を適用した火砕流の2層モデルを開発した.この2層モデルを用いた数値シミュレーションによって,鉛直勾配の著しい密度成層構造をもつ火砕流の基本的な特徴を捉えることに成功した.
日本語原稿執筆者:志水 宏行(東京大学 地震研究所 数理系研究部門)
(敬称略)