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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Review

Solid earth sciences

201604201604

沈み込み帯前弧におけるマントルの加水作用と塩素に富む流体

Reynard B

Mantle hydration and Cl-rich fluids in the subduction forearc

Reynard B

Subduction, Fluids, Forearc mantle, Salinity, Chlorine

高塩濃度流体が存在している可能性のある場所と,温泉水と火山弧の混合経路.カスケードの沈み込み帯のMT法による電気比抵抗断面(Wannamaker, et al. 2014)を右に,その解釈を左に示す.最も南の断面が,前弧域で最も高い電気伝導度(緑の楕円)を示す.この値は,図2のグラフを使うと,最大で1モル濃度のNaCl流体の存在を示すと解釈される.他の2つの断面で,前弧の電気伝導度がより低くなっていること(緑の楕円)は,スラブの脱水による低塩濃度流体によって,流体の濃度が1桁以上薄められているか,または流体分率が1桁以上低いことを示す.これは前弧の上の浅部帯水層(例:ウェストバージニア州オレゴンのWillamette盆地)か,または火山弧域に排水された結果であると考えられる(緑の矢印).さらに東部の高電気伝導度領域は,火山弧下のメルトに富む領域に起因すると考えられる(赤の楕円).

前弧域では,水に富む流体が沈み込むスラブからその熱的状態に依存した速度で放出されている.散逸しようとする流体は,変形したプレート境界や,上盤側プレートのモホのような浸透率が低い障壁にぶつからない限り,垂直に上昇しようとする.プレート境界やモホに沿った流体のチャンネリングは,海洋地殻内の流体過剰圧の発生,流体からの石英の析出をもたらし,微動の発生を伴う低ポアソン比領域を形成する場合がある.沈み込むプレートの上,前弧楔形マントルは,沈み込むプレートの脱水による流体と超塩基性岩類との反応が盛んに起こる場であり,その結果,広範な蛇紋岩化が起こる.プレート境界は,おそらく蛇紋岩化と関連して力学的に切り離されており,その結果,前弧楔形マントルは,冷却し,蛇紋岩化して浮力を持つ可能性のある部分として,マントルの対流から分離されている.地球物理学的研究は,前弧マントルでの流体と岩石の反応を探る優れた方法であり,岩石の性質が実験的に制約されている場合には,流体の移動や流体岩石反応を地球物理学的データから推測することが可能になる.地震波速度の解析により,前弧マントルは,熱い沈み込み帯では蛇紋岩化度が高いのに対し,最も冷たい沈み込み帯ではわずかしか蛇紋岩化していないことが明らかになっている.これは,沈み込み帯が温かいほど,熱水変質を受けた海洋リソスフェアの脱水分解により放出される水の量が多くなるためである.岩石物理学的な制約に基づく地震データの解釈には,異方性による複雑な効果のために,限界が生じている.この異方性は,地震データの解析と解釈の両方において評価される必要がある.電気伝導度は,沈み込みの流体量と温度が上昇するほど高くなる.しかし,広域的な蛇紋岩化が最初に実証された最も高温の北部カスケードの前弧マントルは,中程度の電気伝導度しか示さない.これは,電気伝導度は沈み込み帯の熱的状態のみならず,その熱的状態にあった時間にも依存し,流体の塩濃度によっても変わり得るためである.蛇紋岩生成によって生じた高Cl濃度の流体と火山岩の源岩との混合を考えることで,初生的なマグマ包有物の地球化学的性質が説明できる.地下深部の高Cl濃度流体の特徴は,前弧の温泉にも認められる.これらの観察は,前弧マントルと温泉熱水系または火山弧との間で,流体の循環が存在していることを示唆する.このような循環は,近年の地磁気地電流法から得られる描像によっても証明される.

日本語原稿執筆者:中村 美千彦(東北大学 大学院理学研究科 地学専攻)
(敬称略)