※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.
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日本語Abstract
Research
Atmospheric and hydrospheric sciences
201606201606
格子点間隔を10数kmから1km 未満まで変えた全球大気シミュレーションにおける積雲対流の解像度依存性
梶川 義幸,宮本 佳明,吉田 龍二,山浦 剛,八代 尚,富田 浩文
Resolution dependence of deep convections in a global simulation from over 10-kilometer to sub-kilometer grid spacing
Kajikawa Y, Miyamoto Y, Yoshida R, Yamaura T, Yashiro H, Tomita H
deep convection, high resolution, global simulation, NICAM, cloudy disturbance, resolution dependence
70°S~30°S における、(a)対流の個数と(e)最も近い別の対流中心までのグリッド数の水平解像度依存性。(a) における破線は 14 km 解像度で得られた対流の個数を基準とした log Δ4を示す。(b) (f) は 15°S~15°N, (c) (g) は 15°N~30°N, (d) (h) は 30°N~70°N の領域でそれぞれ同様の解析をした結果。水平格子間隔は 14 km、7 km、3.5 km、1.7 km、0.87 km である。
積雲対流は大気大循環を駆動する雲擾乱の本質的な要素であり、全球大気モデルにおける積雲対流の表現は常に大きな課題の1つであった。近年、計算機やシミュレーションを行う数値モデルの飛躍的な進歩によって 1 km を切る水平解像度を持つ全球大気シミュレーションが可能となり、全球で積雲対流1つ1つを複数の格子点で再現できる時代に入ろうとしている。これまでの研究では全球で発生する積雲対流を平均した解析により、モデルの水平格子間隔がおよそ 2 km より小さくなると、積雲対流が複数の格子点で再現され解像度依存性が小さくなることが指摘されてきた(Miyamoto et al., 2013)。本研究では、水平解像度の異なる全球大気シミュレーションの結果を包括的に解析することで、再現された積雲対流の空間解像度依存性が全球一様ではなく、場所や雲擾乱による環境によって異なることを明らかにした。
シミュレーション中の対流が1つの格子点で表現されている場合、対流の大きさは解像度が高まることで小さくなっていく「解像度依存性」を示す。対照的に、対流が複数の格子点で表現されるようになると、対流の大きさは解像度に依らずある一定の大きさに収束すると考えられる。再現された積雲対流は中緯度に比べ熱帯域で強い解像度依存性を示し、1.7 km の水平格子間隔のシミュレーションでも積雲対流の個数は格子間隔の減少に応じて増加し、
積雲対流が十分に解像されていない事を示した。一方で、全球の海洋上と陸上における積雲対流の解像度依存性には有意な差が見られなかった。マッデンジュリアン振動や台風と言った熱帯雲擾乱中における対流活動の解像度依存性は高く、熱帯(15°S~15°N)における積雲対流の表現と同様な傾向であった。結果として、台風などに代表される雲擾乱中ではない領域に存在する積雲対流が、水平格子間隔 2 km を境にして解像度依存性が弱まると言う Miyamoto et al. (2013) で得られた全球平均の傾向に大きく寄与していたことが明らかになり、雲擾乱中の積雲対流の解像には更に高い空間解像度が必要なことが示唆された。一方で1 km を切る超高解像度シミュレーション(0.87 km)では、どの領域においても解像度依存性に変化が確認され、高解像度全球大気シミュレーションが長期間可能になることで、積雲対流と雲擾乱の相互作用を論じることが可能になると示唆された。
日本語原稿執筆者:梶川義幸(理化学研究所 計算科学研究機構 複合系気候科学研究チーム)
(敬称略)