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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Biogeosciences

201605201605

2段階の水素分圧下の水素資化メタン生成における水素・炭素同位体システマティクス:同位体比によるメタンの起源識別への示唆

奥村 知世,川口 慎介,斎藤 弥生,松井 洋平,高井 研,井町 寛之

Hydrogen and carbon isotope systematics in hydrogenotrophic methanogenesis under H2-limited and -enriched conditions: Implications for the origin of methane and its isotopic diagnosis

Okumura T, Kawagucci S, Saito Y, Matsui Y, Takai K, and Imachi H

Methane, Hydrogenotrophic methanogenesis, Hydrogen isotope ratio, Carbon isotope ratio, H2 availability, Culture experiments

水素資化メタン生成における水素・炭素同位体システマティクスを説明する細胞内外での分子のフラックスの模式図.5つのパネルは増殖速度と水素ガス分圧によって分類している.赤矢印はCH4の同位体組成に関連する分子のフラックス,緑・青矢印はCH4の同位体組成に直接関連しない分子のフラックス,灰色矢印は無視できる分子のフラックスである.点線の楕円は細胞膜で,図中のH2Oは水とプロトンの両方を含意する.詳細は本文を参照.

メタン(CH4)は,地球温暖化・生命圏の限界・他天体での生物活動・生命誕生以前の化学進化などの鍵となる物質であり,その起源の推定は地球科学分野における一大研究対象である.CH4の炭素および水素安定同位体比は,その起源を判別する指標として長年使用されている。水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を利用するメタン生成古細菌(メタン菌)によるCH4–CO2間の炭素同位体分別は, H2分圧に影響を受けるメタン生成経路の可逆性によってコントロールされると考えられている.また高いH2分圧下でのメタン菌の培養実験では,H2Oの水素同位体比のみならず H2の水素同位体比もCH4の水素同位体比に影響を及ぼすこと(δDH2効果)が明らかにされている.しかしこれらの理解はそれぞれ別の培養系で確認された事象であった.本論文では,メタン菌3種について,2段階のH2分圧条件下(高:~105 Pa,低:<102 Pa)で培養し,そのH2O–H2–CO2–CH4間の炭素と水素安定同位体システマティクスを調べた.なお高いH2分圧は分離株培養で一般に用いられる条件であり,低いH2分圧はメタン生成の起こる天然環境を模した条件である。

本研究で得られたCH4–CO2間の炭素同位体分別およびそのH2分圧との相関は先行研究と調和的であった.一方,H2O–H2–CH4間の水素同位体分別を検討したところ,高いH2分圧下かつ増殖速度が比較的速い場合(数10時間スケール)にδDH2効果が確認され(図a),高いH2分圧下でも増殖速度が比較的遅い場合(数10日スケール)はδDH2効果が認められなかった(図b).低いH2分圧下におけるCH4–H2O間の水素同位体比分別は,同様の培養実験を行った先行研究と同等であるだけでなく,ルーメンや土壌など比較的“若い”のメタンリザーバーの観測結果とも同等であった(図c)。一方これらの若いメタンの水素同位体分別と比べ,天然ガスや地下水,メタンハイドレートといった“古い”メタンリザーバーでは明らかに高い値が観測されている.この違いは,メタン生成経路の可逆反応を通じて起こる地質中のCH4とH2Oとの水素同位体交換による続成的変化で生じた可能性がある(図d, e).

日本語原稿執筆者:奥村知世(海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野)
(敬称略)