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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Solid earth sciences

201605201605

マルチグレインXRD法によるポストペロブスカイトとH相の格子定数決定:メガバール圧力下におけるレーザー加熱領域内の組成変化

Zhang L, Meng Y, Mao H-k

Unit cell determination of coexisting post-perovskite and H-phase in (Mg,Fe)SiO3 using multigrain XRD: compositional variation across a laser heating spot at 119 GPa

Zhang L, Meng Y, Mao H-k

Lower mantle, Multigrain XRD, Diamond anvil cell, Post-perovskite, H-phase, Unit cell, Synchrotron X-ray

加熱領域内の(Mg,Fe)SiO3ポストペロブスカイト相とH相の格子体積変化.マルチグレインXRD法により得られた(Mg,Fe)SiO3ポストペロブスカイト相(a)とH相(b)の格子体積を,加熱中心からの距離を横軸として,5 μmステップでプロットしてある.測定は加熱後に行い,圧力条件は119 GPaである.Ne圧媒体による準静水圧環境下にもかかわらず,中心から10 μm離れたところにおいてポストペロブスカイト相で0.16%,H相で0.54%の体積減少がみられた.

高温高圧下での実験において,元素分配や化学反応に起因した組成の変化は,試料中の鉱物の格子定数の変化として検出が可能である.格子定数のわずかな変化を検出するにはマルチグレインX線回折(XRD)法が有用である。この方法は,単結晶X線回折の手法を粉末X線回折の結果に適用したもので,試料中の複数の鉱物種それぞれの無数の結晶からの回折点を単結晶的に解析することでより精密な格子定数を得る手法であり,ダイヤモンドアンビルセル中の試料のような,単結晶での解析が難しい高圧条件下での試料の解析に力を発揮する.本研究では(Mg0.85,Fe0.15)SiO3の組成の出発試料から,レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いて119 GPa,2500 Kの高温高圧条件下においてポストペロブスカイト相とH相の共存する2相を合成した。合成後の高圧常温の試料に対して,加熱中心部20-30 μmの領域をビームサイズ約5 μmのX線でスキャンし,加熱領域横断方向の試料の格子体積変化について調べた.その結果,加熱中心部から10 μm離れるとポストペロブスカイトで0.16%,H相で0.54%の体積減少がみられた.試料はNe圧媒体による準静水圧環境にあるので,圧力勾配の影響は小さい.従って,これらの体積変化は主に組成変化に起因すると考えられ,加熱中心部から10 μm離れたところでポストペロブスカイトは3%,H相は10%程鉄に枯渇していると考えられる.逆に,より高温の加熱中心部では比較的鉄に富んでいることになり,熱拡散により期待される組成勾配とは逆の傾向になる.本研究で観察された加熱領域内の組成変化は,ポストペロブスカイト相とH相間の元素分配に対する温度効果に起因している可能性がある.

日本語原稿執筆者:境 毅(愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター)
(敬称略)