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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Interdisciplinary research

201602201602

福井県水月湖へ流入する砕屑物フラックスの強雨プロキシとしての可能性:観測降水量記録と堆積物記録の比較による検討

鈴木 克明,多田 隆治,山田 和芳,入野 智久,長島 佳菜,中川 毅,大森 貴之

Mass accumulation rate of detrital materials in Lake Suigetsu as a potential proxy for heavy precipitation: a comparison of the observational precipitation and sedimentary record

Suzuki Y, Tada R, Yamada K, Irino T, Nagashima K, Nakagawa T, Omori T

水月湖表層堆積物(左から、コントラスト強調した断面写真、軟X線写真、柱状図)について本研究で構築した年代モデル。年縞計数結果(灰色)をもとに、放射能年代測定による年代制約(橙色)、イベント層(青)と洪水記録(赤)対比とベイズ統計(点線)を組み合わせることによって、高精度、高解像度な年代モデルの確立に成功した

東アジアは世界有数の人口密集地域であり、この地域において生活基盤とも災害原因ともなる、東アジアモンスーンや台風襲来によりもたらされる降水のメカニズム、規模、およびその周期性を知ることは重要である。しかし、気候観測データは最近数十年の記録をしているに過ぎず、極端降水現象の長期的なトレンドと、その背景となるメカニズムを理解するには不十分である。湿潤地域において、河川水により運搬される細粒砕屑物フラックスは、降水量に対して流域特有の関係式を示すことが知られている(レーティングカーブ)。したがって、細粒砕屑物フラックスは、過去の強雨の量や頻度の変動を復元するプロキシとしての潜在的可能性を有している。そこで、砕屑物フラックスが過去の強雨イベント(台風など)を記録しているかどうか検証するために、本研究では中部日本・福井県水月湖の表層年縞堆積物について研究を行った。これは、水月湖表層堆積物に保存されている年縞を用いて年代モデルを構築することで、砕屑物フラックスを高解像度で復元し、さらに観測されている降水量変動記録と正確に対比することができるためである。

まず、年縞計数、放射能年代測定、歴史的洪水とそれにより堆積したと推定されている砕屑物層(イベント層)の対比によるチューニングに基づいて、1920年まで遡る非常に精密な年代モデル(年代誤差は平均±1年以内)を確立した。

次に砕屑物フラックス(g/cm2/yr)を、Al2O3の含有量(重量%)、乾燥かさ密度(g/cm3)、年代モデルから推定された堆積速度(cm/yr)に基づいて推定した。バックグラウンド(イベント層以外)の砕屑物フラックスは、年間・6月(梅雨期)・9月(台風シーズン)における100mm/day以下の降水量と弱い正相関を示した。また、砕屑物フラックスのピークと対応し、台風による洪水と対比されたイベント層の層厚は、洪水をもたらした総降水量と正の相関を示した。この結果は、砕屑物フラックスのピーク、すなわちイベント層の堆積が、本州中部に上陸した台風による極端降水現象を記録していることを示唆する。

よって、水月湖のより古い時代の堆積物コアについて本研究の成果を応用すれば、イベント層堆積フラックスの変動に基づいて過去の洪水記録復元を行うことが期待できる。

日本語原稿執筆者:鈴木 克明(東京大学)
(敬称略)