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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Solid earth sciences

201511201511

地下深部・上部マントルの温度圧力範囲における水に富んだ流体のZr4+輸送能力のその場実験による研究

Mysen B

An in situ experimental study of Zr4+ transport capacity of water-rich fluids in the temperature and pressure range of the deep crust and upper mantle

Mysen B

Mass transfer, Aqueous fluid, High pressure, Structure, Solubility, Spectroscopy

流体中のZr濃度と温度・圧力の関係.流体の系は図中に示されている.横軸の平均圧力は,図2の回帰直線から計算された値.実測圧力は表1を参照.ZrO2-SiO2-H2O系の流体については,2つのデータ点(725℃,800℃)のみが示されているが,これは低温(・低圧)下で,Zrを含む錯体の振動に割り当てられるラマンシグナルがバックグラウンドノイズ以上には検出されなかったため.水平の誤差範囲は計算により求められた圧力の不確かさを表す(±110 MPa;本文参照).

地球の歴史を通じて,物質の輸送は流体(フルイド)を伴って起こってきた.Zr4+が流体によって輸送され得る状況を検討するため,水性流体がZrO2結晶と化学平衡にあるとき,どのようなZr4+の溶解度を持つかを決定した.測定は,NaOHとSiO2を含む場合と含まない場合について,550~950℃,60~1200 MPaにおいてその場測定法により行った.ZrO2‐H2O系とZrO2‐SiO2‐H2O系の流体において,Zr4+の濃度は10 ppm以下から70 ppmまでの範囲をとり,温度と圧力が上昇するほど増加した.ZrO2‐H2O系にSiO2を加えることは,この溶解度に有意な影響は与えない.これら二種類の系では,Zr4+はH2O流体中で単純な酸化物錯体の形をとり,ZrO2(固) = ZrO2(流体中)の溶解反応による∆Hは約40 kJ/molである.水性流体に対するZr4+の溶解度は,1MのNaOHを加えることで約1桁増加するが,これはジルコン酸錯体が形成されることを反映している.その主要な溶解機構は,ZrO2 + 4NaOH = Na4ZrO4 + 2H2O であり,その∆Hは約200 kJ/molである.SiO2とNaOHを同時にZrO2‐H2O系に加えると,Zr4+の溶解度は約5倍増加する.これは部分的にプロトン化したアルカリジルコンケイ酸塩錯体が流体中に形成されることによる.この主要な溶解機構は2ZrO 2  + 2NaOH + 2SiO2  = Na2Zr2Si2O9  + H2Oと表され,その∆Hは約40 kJ/molである.既に公表されている実験データと併せると,これらの結果は,地球内部のある状況において,含水鉱物が高温/高圧力により脱水する間に放出された水が,かなりの濃度のZrと(おそらく他のhigh field strength (HFS) 元素も)運搬する可能性があることを示唆する.この推定は,高変成度のエクロジャイトやグラニュライト岩体中に,Zr4+に富む脈が産することと調和的である.さらに,海洋地殻の脱水により生じた水性流体も,その上盤側の部分溶融ソースマントルに高濃度のHFS元素を輸送し得る.これらの作用は,今日観察されるのと同様の沈み込みが開始して以降,地球の歴史を通じて働いていた可能性がある.

日本語原稿執筆者:中村 美千彦(東北大学 大学院理学研究科 地学専攻)
(敬称略)