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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Review

Solid earth sciences

201511201511

地球型惑星や衛星の中心核固化様式とダイナモ活動への示唆:鉄の雪が降り硫化鉄が浮き上がる内核成長

Breuer D, Rueckriemen T, Spohn T

Iron snow, crystal floats, and inner-core growth: modes of core solidification and implications for dynamos in terrestrial planets and moons

Breuer D, Rueckriemen T, Spohn T

Core crystallization, Dynamo generation, Iron snow, Terrestrial planets, Thermal evolution

Fe-FeS組成系における中心核の結晶化シナリオ.赤・青・緑の丸はそれぞれ固体のFe,FeS,Fe3Sを表し,丸から伸びる短い線はその成分の移動方向を示す.赤線は核において推定される温度分布,青点線は核の融点分布を表す.黒線はSの存在度.実線と破線の矢印はそれぞれ組成対流と熱対流を示す.(a) 地球のような,Feに富む内核が中心から成長する場合.硫黄は外核に濃集して組成対流を引き起こす.(b) CMBで発生したFeの雪が沈降する場合.沈降したFeは深部で再溶融するとともに組成対流を引き起こす.降雪域が時間とともに広がり中心付近まで達すると,固体Feの内核が形成される.(c) FeSの結晶がCMBへと浮上し,固体のFeS層を形成する場合.下層の流体領域はFeに富み対流が生じる.(d) CMB付近の固体のFeS層が成長する場合.FeS層の成長に伴いFeが吐き出されることによって,(c)と同様な組成対流が生じる.(e) 中心付近で析出したFeSの結晶が浮上し再溶融する場合.再溶融した領域では対流が生じる.FeS結晶がCMBまで広がると固体のFeS層が形成される.(f) CMB付近でFe3Sの雪が生じる場合.降雪は核全体に広がり,最終的には中心に固体Fe3Sの内核が形成される.(g) 固体Fe3Sの内核が成長するが,その上部では対流が生じない場合.

近年の惑星探査や数値計算によって,地球型惑星や衛星の深部構造の理解は飛躍的に向上した.本稿ではこれらの天体の,鉄(Fe)を主体とする中心核の組成や状態に関する理解をレビューするとともに,水星,月,火星,そして木星衛星ガニメデの磁場の進化に関する最新の知見をまとめる.この中では,地球中心核における“鉄の降雪”や硫化鉄(FeS)の結晶浮上といった,古典的な描像とは異なる結晶化プロセスが示され,中心核の進化に重要な役割を果たすものと認識されている.核の組成がFeとFeSの共融組成よりもFeに富む場合には,地球中心核よりも低い圧力領域では“鉄の降雪”が発生し,核の中心ではなく核マントル境界(CMB)付近でFeが固化し始める.一方で核の組成がFeとFeSの共融組成よりも硫黄(S)に富む場合には,FeSの結晶化が発生する.この結晶化が核の中心付近で生じるかCMB付近で生じるかは,核が持つ温度構造と圧力に依存する.こうした多様な結晶化プロセスは,核内部のダイナミクスや磁場の生成に様々な影響を及ぼす.月では,古月磁気データにもとづいて42.5億年~35億年前に核ダイナモを起源とする強い磁場が存在し,その後に急速に弱まったことが示唆されている.また,アポロ地震計データの再解釈によって,月の核ダイナモは従来の予想よりも長期間存続し,内核も存在していたことが示唆されている.水星とガニメデのダイナモと磁場発生は,(核の組成がFeとFeSの共融組成よりもFeに富むならば)比較的最近に生じた中心核での“鉄の降雪”によって引き起こされた可能性がある.水星の初期のダイナモ活動は,これらとは異なる要因で生じたと推定される.メッセンジャー探査機のデータによれば,水星の中心核がケイ素を含む還元的な環境で形成し,核の結晶化がさらに複雑な過程で進んだことが示唆される.進化史の初期に強い磁場を持っていた火星は,固体Feの内核形成がまだ始まっていないようである.

日本語原稿執筆者:木村 淳(東京工業大学 地球生命研究所)
(敬称略)