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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Atmospheric and hydrospheric sciences

Session convener-recommended article JpGU Meeting 2013

201412201412

噴火湾におけるホタテガイ生産と海洋環境に果たす融雪出水の役割

中田 聡史,馬場 勝寿,佐藤 政俊,夏池 真史,石川 洋一,淡路 敏之,小山田 耕二,齊藤 誠一

The role of snowmelt runoff on the ocean environment and scallop production in Funka Bay, Japan

Nakada S, Baba K, Sato M, Natsuike M, Ishikawa Y, Awaji T, Koyamada K, Saitoh S

Snowmelt runoff, Scallop aquaculture, Land-sea linkage, OGCM, Nutrient flux, Submarine groundwater discharge

2006年~2013年の春季におけるホタテガイ稚貝密度とシミュレーションによって推定された噴火湾に注ぐ全河川の合計流量。上段が2月~4月における河川流量の平均値であり、下段が3月~4月における河川流量の平均値。Rは相関係数である。ホタテガイ稚貝の採取方法や稚貝密度計算方法については Baba et al. (2009) を参照されたい。

噴火湾は、親潮水と津軽暖流水が季節的に流入出する世界的に希少な半閉鎖的な内湾であり、ホタテガイ養殖が盛んな湾である。本研究では、時空間的に高解像度な陸海統合シミュレーションによる水文環境と海洋環境の再現計算データと、河川と観測井において観測された栄養塩濃度データに基づいて、湾内流動場や水塊形成、ホタテガイ生産に融雪出水がどのような役割を果たすのかを調べた。河川流量の観測値とシミュレーションによる推定値を比較した結果、モデルの再現性は十分であった。海底湧水の年平均流量は、河川の年平均流量の4分の1程度であった。収集された栄養塩観測データを用いて、河川と海底湧水からの陸起源の溶存無機態窒素(DIN)フラックスを推定すると、海底湧水からのDINフラックスは融雪期前においては全DINフラックスの4割にも達した。DINフラックスの時間変動はDIN濃度の時間変動よりも河川流量の時間変動に支配される。海洋モデルを用いて融雪期における陸域からの淡水フラックスに対する海洋応答の感度実験を実施した。淡水フラックスは、沿岸海域において湧昇流を伴う時計回りの流動場を強化させ、湾内の水塊分布も変化させた。時計回りの流動場は風による強制が支配的であり、淡水フラックスが与える流動場の変化は、ホタテガイ稚貝の湾内輸送にほとんど影響しなかった。ホタテガイ稚貝密度は、多量の栄養塩を伴う河川からの融雪出水と高い相関関係があった(図参照)。このことは、融雪出水に伴って農地から河川を通じて沿岸海域へ排出された栄養塩が植物プランクトン等の生物生産を高めた結果、ホタテガイ母貝の摂餌状態が改善され、産卵量と稚貝密度が高くなることを示唆した。このような陸海連環(land-sea linkage)が、特に融雪期において陸域の農業と海域の養殖業を強く結びつけていると考えらえる。沿岸域における農業と漁業が持続的かつ協働的であるための統合的管理を目指すには、陸海連環を認識することが重要である。

日本語原稿執筆者:中田聡史(京都大学 国際高等教育院 /
神戸大学 海事科学研究科)
(敬称略)