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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Research

Solid earth sciences

201508201508

水とマグマ:赤外,ラマン,29Si固体NMR分光法によるアルカリシリケイトメルト中への水の溶解メカニズムについての洞察

Le Losq C, Mysen B O, Cody G D

Water and magmas: insights about the water solution mechanisms in alkali silicate melts from infrared, Raman, and 29 Si solid-state NMR spectroscopies

Le Losq C, Mysen B O, Cody G D

Melt, Glass, Structure, Water bonding, Water speciation, NMR spectroscopy, Raman spectroscopy, Viscosity, Magma, Fragmentation

ラマンスペクトルのカーブフィッティング例.左からリチウム(LS4),ナトリウム(NS4),カリウム(KS4)テトラシリケイト.それぞれ上段は含水ガラス(17.6 mol% H2O),下段は無水ガラス.含水ガラスのスペクトルには,無水ガラスのスペクトル中には存在しない900 cm-1付近のピークが見られる.このピークは,様々なQn種の中に存在するSi-O-H結合の伸縮振動に対応すると考えられる.KS4組成の含水ガラスに見られる850 cm-1付近のピークは,ガラス中に微少量存在するQ1種であると推定される.種々のQn種の模式図を図の上部に示した(各イオンの大きさは,実際の比率で描かれていない).BOは架橋酸素(Si-O-Si結合).NBOは非架橋酸素(Si-O-MまたはSi-O-H結合.ここで,M+はアルカリ元素).

火山体内部を上昇中の含水マグマから水の脱ガスが起こると,マグマの密度や粘性は大きく変化する.そして,その様な変化が噴火のダイナミクスに大きく影響することになる.このとき,マグマからの水の離溶がいつどの様に起きるかについては,シリケイトメルト中への水の溶解度や溶解メカニズムにより左右される.これまでの研究によると,シリケイトのガラスやメルト中に溶解している水は,分子(H2O分子種)として存在するものと,-OH水酸基として存在するものがあることが知られている.後者の-OH水酸基は,一般的にはSi4+と結合していると考えられているが,例えばアルカリ元素やアルカリ土類元素の陽イオンと結合する場合もあるであろう.どういった結合形態をとるかによって含水メルトの構造は変化し,ひいてはメルトの物性も変化することとなる.したがって,溶解している水が元々どの様な結合をしていたかにより,マグマからの水の離溶が及ぼす噴火様式への影響も違ったものになると考えられる.しかしながら,シリケイトメルト中への水の溶解メカニズムは,その重要性にもかかわらずまだ十分に明らかになってはいない.なかでも水の溶解度や溶解メカニズムが,メルトの化学組成の違いによってどの様に変化するのかに関しては,よく分かっていない.このような内容を明らかにするため,本研究ではアルカリ(Li,Na,K)シリケイトメルトの急冷ガラス中の陽イオンネットワークと水がどの様に相互作用しているのかについて,実験的に決定した.29Siシングルパルス・マジック角回転核磁気共鳴法(29Si SP MAS NMR),赤外及びラマン分光法による分析から,シリケイトメルト中のアルカリ元素の陽イオン半径が小さくなるにつれて,-OH水酸基として溶解する水の割合が減少することが判明した.また,アルカリ元素とOHとの結合の性質は,イオン半径の大きさにより変化するということも明らかになった.一般に,メルトの重合度というものはメルト中に存在する化学種や水の結合状態により規制されている.よって,シリケイトメルトの物性に及ぼす水の影響は,メルトの化学組成によって違ったものになる可能性が予想される.今後,含水マグマの粘性緩和に関連する火山現象(例えば爆発的噴火における破砕過程など)を議論する上においては,本研究で明らかになったこれらの事実を考慮する必要があるであろう.

日本語原稿執筆者:三部賢治(東京大学 地震研究所 物質科学系研究部門)
(敬称略)