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Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Review

Atmospheric and hydrospheric sciences

201503201503

中間圏および下部熱圏の力学:レビュー

Vincent R A

The dynamics of the mesosphere and lower thermosphere: a brief review

Vincent R A

Atmospheric tides, Gravity waves, Planetary waves, Middle atmosphere, Mesosphere, Lower thermosphere, Wave coupling

2006 年の突然昇温。 上図: 2006年1月下旬の成層圏突然昇温期間中の温度の時間高度断面。成層圏界面が時間とともに下降し、昇温のピーク時に消滅、それに引き続いて中間圏に圏界面が再出現し、下降していくことに注目。下図:北緯60度、10 hPa における東西平均東西風の時間変動。青線は突然昇温期間中の風速、赤線は気候学的な季節変化。Yamazaki et al. (2012) の図1に基づく。

成層圏の昇温は大規模な惑星波が冬季の中層大気(高度10-100km)で砕波することで生じる。この図は中層大気全体が影響を受けていることを示しており、東西風と温度の構造が一時的に夏季条件のように逆転する。成層圏の東西風は短時間で西向き(負値)に変わり(下図の青線)、高度70km以上の中間圏では東向きに変わる。卓越風のこのような変化は、続いて重力波の鉛直伝播に影響を与え、重力波が中層大気に及ぼす効果を変える。成層圏の昇温の効果は電離圏でも観測されており、電波の伝播に影響を及ぼしている。

なお、論文中のFigure 1.のキャプション中のHagan et al. ([1999]) は Hagan et al. ([2009]) の誤りである。

中間圏-下部熱圏 (MLT) (高度60-110km) の力学は波とその効果によって支配されている。MLTの基本的な構造は小規模重力波による運動量の蓄積によって支配されており、これによって中間圏界面における夏極から冬極への循環が駆動されている。大気潮汐もまたMLTの力学に重要な要素である。広範囲に展開した地点観測網、人工衛星、数値モデリングはいずれも、MLT内の太陽非同期の潮汐モードは、熱圏・電離圏との直接的な結合を引き起こし、以前にも増して重要であることを指摘している。冬期の突然昇温等のより下層の大気中の主要な擾乱は、MLTの循環パターンや熱的構造に急激な変化をもたらす。赤道中間圏においては、準2年の時間スケールの変動もみられるが、主に重力波収束によって駆動される半年スケールの東西風の振動が卓越している。準2日波のような惑星規模の波動は、特に南半球において夏季MLTの力学の一時的な支配要因となり、高緯度MLTの熱的構造と物理特性の急激な変化をもたらす効果があるだろう。本論文では、MLTの力学に関して、特に過去10年間の研究の進展に着目した簡単なレビューを行う。

日本語原稿執筆者:河谷芳雄(海洋研究開発機構)
佐藤正樹(東京大学 大気海洋研究所 / PEPS編集委員会 セクション編集長)
(敬称略)