※Progress in Earth and Planetary Science は,公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルで,JpGUに参加する51学協会と協力して出版しています.

※Progress in Earth and Planetary Science は,独立行政法人日本学術振興会JSPSより科学研究費助成事業(科学研究費補助金)のサポートを受けています.

>>日本地球惑星科学連合

>>参加51学協会へのリンク

  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
  • Progress in Earth and Planetary Science
Progress in Earth and Planetary Science

日本語Abstract

Review

Biogeosciences

201404201404

海底熱水の物理・化学的多様性が熱水生態系に及ぼす影響についての理論的考察

中村謙太郎,高井 研

Theoretical constraints of physical and chemical properties of hydrothermal fluids on variations in chemolithotrophic microbial communities in seafloor hydrothermal systems.

Nakamura K. Takai K.

Deep-sea hydrothermal systems, Chemosynthetic ecosystems, Hydrothermal fluid chemistry, Host rock geochemistry, Geochemical modeling, Bioavailable energy yield

様々な地質セッティングの熱水から、代表的な好気的(上図左)・嫌気的(上図左)代謝によって得られるエネルギー量

海底熱水生態系は,熱水に含まれる還元物質から化学エネルギーを取り出すことのできる微生物(化学合成微生物)を一次生産者とする特異な生態系である。このような生態系は、地球における初期生命の発生・進化や地球外生命を探求するための重要な手掛かりとして注目されている。熱水から供給される還元化学物質をエネルギー源として一次生産を支える生態系が、熱水の化学組成に大きな影響を受けているであろうことは容易に想像することができる。しかし、その化学的なリンケージを包括的に理解することは容易ではなく、これまでその全体像は得られていなかった。そもそも、熱水の化学組成(特に生命が代謝で使う硫黄、水素、メタン、鉄)のバリエーションと、それを生み出す地質学的な背景は、これまで必ずしも系統立てて理解されてはおらず、さらにその生命活動に与える影響までをも包括した研究は、ほとんど行われてこなかった。そこで、本研究ではまず熱水化学組成のコンパイルを行い、代表的なテクトニックセッティングを網羅した89の熱水端成分のデータベースを構築し、それを用いて (1) 熱水の化学組成のバリエーションとそれを生み出す地質学的な背景を考察するとともに、(2) 熱水−海水混合域において生物が利用可能な代謝エネルギーのポテンシャルを計算した。さらに、(3) その結果を実際に観測されている生態系の特徴と比較し、熱水化学組成と熱水生態系との化学的な繋がりを考察した。その結果、以下のことが明らかとなった。

  • 1.ほとんど全ての熱水系において、硫黄の濃度は1mmol/L以上と高く、またバリエーションも小さい。このことを反映して、ほとんどの熱水系において硫黄酸化反応は最もエネルギー的に有利な代謝であり、熱水化学組成のバリエーションはこの傾向にほとんど影響を与えない。
  • 2.一方、熱水の水素とメタンの組成は異なる地質セッティングに起因する熱水系によって様々であり、そのバリエーションも非常に大きい。これらの元素の濃度バリエーションは、生物が利用できる代謝エネルギーに大きな影響を与えるため、生態系へのインパクトが大きい。
  • 3.実際に観測される熱水生態系の生物は、熱水の化学組成から理論的に予測される傾向と概ね整合的であることがわかった。これにより、熱水生態系と熱水化学組成の関係性を化学的に系統立てて説明できることが示された。このことは、今後の地球初期生命研究および地球外生命研究を進める上で、重要な理論的基盤を与えると期待される。

日本語原稿執筆者:中村 謙太郎(東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻)
(敬称略)